サクセッションプランとは?重要性や導入手順まで紹介【人事向け】
日本では主に中小企業で28.6%もの企業が後継者不足で廃業になっています。これを解決する方法にサクセッションプランというものがあります。次世代のリーダー候補を、現段階で目星をつけ、彼らがマネジメントの幹部として会社を引っ張っていける存在となるように、現任者が直接指導を行うことを指します。
TechAcademy HRマガジンは、TechAcademyが運営するIT業界で働く人事向けのWebメディアです。人材採用支援のTechAcademyキャリアやオンラインで学べるIT・プログラミング研修も提供しています。
日本では主に中小企業で28.6%もの企業が後継者不足で廃業になっています。しかもそのなかには赤字での倒産ではなく黒字倒産になっている企業もあり、これが社会問題となっています。このまま進むと日本の産業を支える企業がなくなるとのことで、M&Aや個人が会社を買うを支援する企業などが出て来ています。
それも大事ですが同時にやらなければいけないのが、常に幹部候補生を育成・確保しておく仕組みを作ることです。その方法にサクセッションプランというものがあります。
今回はこのサクセッションプランについて詳しく解説していきます。読み終わる頃には、自社の長期的な継続を見据えた人材戦略が組めるはずです。
なお本記事は、TechAcademyの法人向けIT・プログラミング研修での実績をもとに紹介しています。
目次
サクセッションプランとは
まずはサクセッションについて解説していきます。
1.意味
サクセッションプラン(Succession Plan)とは、日本語では「後継者育成候補」と訳されます。後継者とは主に、経営層の後継者育成を指します。
次世代のリーダー候補を、現段階で目星をつけ、彼らがマネジメントの幹部として会社を引っ張っていける存在となるように、現任者が直接指導を行うことを指します。そうすることで、将来該当するポジションが空席になったとき、または万が一の理由により経営層が空いてしまった場合も、スムーズに適切な人材を配置することが可能となります。
サクセッションプランでは、経営層自らが、選抜した若手に対して特別な教育を行いますので、長期的に会社が安定するのです。
2. 特徴
サクセッションプランは、その一連の流れにおいて現役の経営層が強く関与していることが特徴です。彼ら自らの責任において、幹部候補生を選抜し、策定したプランに基づいて将来会社を引っ張っていける存在になれるよう、教育を行います。
また、ポストを断定せず、優秀な人材を囲い込むという意味合いでも用いられることがあるようです。
3. 人材育成との違い
人材育成とは、社員個々に焦点を当て、彼らが長期的にパフォーマンスを高めてくれるように行う教育です。一人一人のパフォーマンスが上がれば、企業への貢献度も上がり、業績の向上につながります。人材育成は一般的に人事部の管轄と責任です。
それに対して、経営層が一部の人材(若手〜中堅層)を選抜し、将来の幹部候補生として長期的に育成を行う際に用いられるのがサクセッションプランです。
4.従来の後任登用の違い
一般的な後任登用とは、人事戦略の一環として扱われ、特定のポジションが空席になりそうな時点で、適任である人を探し、補填を行います。年功序列型の企業では、スムーズな権力と業務の移行のため、即戦力となる人材が後任になります。従って直属の部下や、類似するポジションで活躍している人が後任の対象となることがほとんどでした。
しかしサクセッションプランでは、早くから後継者リストを作成し、長期的なしてんで育成をします。育成後は、本人と会社の最適なタイミングを測って登用されます。
サクセッションプランの重要性
なぜサクセッションプランを作成することが大切なのでしょうか。それは、サクセッションプランは企業の持続的成長に欠かせないからです。
リーダー候補を一定数確保し、長期的な視点で育成を行うことで、ポストに空きが出た時に、戦略的に若手を登用することで、業務のスムーズな移行を実現することが可能です。また経営陣に不測の事態が起こったときでも、会社としての機能を落とさないということで、ある種のリスクヘッジにもなっているのです。
サクセッションプランは単なるリーダー教育ではありません。経営層が直接候補生を教育するときに教えるのは、スキル以外も、会社のビジョンや、創業代の会社に対する想いなど様々です。マネジメント層の想いを受け継いだ幹部候補生は、幹部候補生でありながら社長と同じ目線で、同じ情熱やマインドを持って業務に取り組むことができます。
日頃からマネジメント層の立場でものを考えることでそれが習慣化されるので、実際のポジションに着いたときも社長と同じ思考回路で意思決定を下すことができるようになるのです。
一般的な人材登用だと、そこまで長期的に育成を行うということではなく、ましてやマネジメント層の頭の中を覗く機会などほとんどありません。人事戦略のもとで、長期的に優秀な社員を教育することができるのは、会社のサステイナビリティーを高める大きな要素となります。
サクセッションプランが注目されている理由
ではなぜここまでサクセッションプランが注目されているのでしょうか?それには大きく2点あります。詳しく解説していきます。
1.後継者不足問題
H28に株式会社野村総合研究所のリサーチで明らかになったこととして、小規模事業者の廃業理由の2割以上が「後継者がいないこと」でした。これは小規模事業者に限った話ではなく、中規模事業者も含めた日本全体の問題でもあります。
日本には386.4万の事業者があり、大企業はわずか0.3%しかありません。日本の99%の企業が小中規模事業者ですので、日本の企業の約2割が、人的不足により会社をたたむことを余儀なくされているのです。2割の会社が消滅することによる日本経済へのダメージの大きさは容易に想像がつくでしょう。
下請け企業が消滅することによって、大企業もダメージを受けることになります。こうした流れの中でサクセッションプランが注目されてきているのです。
2.長期的な人事戦略
これまで社長が個人的に若手に声をかけるであったり、CFOが個人的に仲良くなったりすることで若手を引き抜くといったことは行われていました。しかししっかりとした「プラン」としての認識ではないために偶発的なものとなっていました。
サクセッションプランはれっきとした計画であり、経営層のリソースをさいて戦略的に行うものです。これにより「偶然いい若手がいたから引き抜いて社長が教育しよう」というような不安定さを排除することができます。
そのような意味において、サクセッションプランは、長期的な人材戦略としての立ち位置を確立しています。
サクセッションプランのメリット
ではサクセッションプランを導入するメリットはなんでしょうか?詳しく解説していきます。
1. リーダー不在のリスクをなくすことができる
どの企業にとってもCEOやCFO、CMOなどの主要なポストに不在期間ができてしまうのは避けなければなりません。1人が不在になるだけで現場は混乱してしまい、それまでのパフォーマンスをあげることが難しくなってしまいます。
日本の事業者の廃業の理由の2割が後継者不足だということはすでに述べましたが、経営層以外にも空白のポストができてしまうのは極力避けなければなりません。
2.優秀な人材の流出を防ぐ
どの企業にも仕事ができる若手は存在します。そして彼らは、必ずしも正当な評価を受けれているわけではありません。優秀であるからこそ周りと同レベルの評価では物足りず、モチベーションが下がってしまう場合があります。そして最悪の場合には他企業への転職や独立を考えるかもしれません。
サクセッションプランの大きなメリットとしてはそのような将来が期待されている若手の流出を未然に防ぐことができます。優秀な若手社員に対し将来の幹部ポストへの道筋を示しながら育成を行うことによって企業へのアタッチメント(愛着)が高まり、仕事へのモチベーションも上がります。
3.若手のモチベーション維持
先ほどの話と重なりますが、引き抜かた側の社員は当然モチベーションが上がります。すでに素質のある人材はたくさん経験を積むことで応用が利くようになるため、日頃の業務のパフォーマンスも向上するでしょう。
サクセッションプランを実行する上では、かくポストの後任者として必要なスキルや経験などの基準を明記します。「私も候補生に選ばれたい!」と思って基準に達しようと頑張る社員が多くなれば、社内全体の士気も上がることが期待できます。
サクセッションプランは「見える化」したほうが良いのはいうまでもありません。
サクセッションプランの導入手順
社内でサクセッションプランを導入しようと思ったらまず何から取り掛かれば良いのでしょうか?一例としてプラン作成の手順を説明します。
1.会社のミッションを明確化する
会社は何のために存在してどこに向かっていくのかという企業理念を言語化します。会社がどこに向かっていけばいいのかがわからないままでは、サクセッションプランを作ることはできないからです。
2.サクセッションプランを行う事業を決める
多くの社員が働く大企業であれば、すべての事業領域に関してサクセッションプランを行うことができますが、そうでない場合にはまずはどのポジションで人を育成していくかを考えましょう。
3.幹部候補になるための要件を明示する
必要なポジションが決まったら、あとはそのポジションに必要なスキルを列挙します。例えば、
- 経営全般に関する知識
- 責任あるポジションの経験
- コミュニケーション能力
- 語学力
- 専門知識
などが挙げられます。
4.要件に合わせ、社員を選抜する
決まった要件と照らし合わせて社員を評価します。対象ポジションのすぐ近くだからや、過去の実績ではなく、現段階で可能性がどれくらいあるのかを見極めなければなりません。
社内で評価するのが難しい場合には、外部のアセスメントセンターを利用することも考えましょう。
5.該当人材に機会を提供する
該当した若手社員へ通知を行う企業もあれば、通知をしない企業もあります。いずれにせよ、幹部候補生になったら、様々な部署をローテーションで経験させたり、プロジェクトのリーダーに抜擢したりと、将来マネジメント層でトップで働くことを疑似体験させます。
サクセッションプランの事例
では最後にサクセッションプランを導入し幹部候補生の育成に成功した事例を紹介します。これをもとに自社でも導入可能かどうか見極めてみましょう。
1.帝人株式会社の経営者育成制度「ストレッチ」
帝人は、「ストレッチ」という独自の制度でサクセッションを行っています。まず経営層(役員)に自分の後継者を推薦してもらい、人事委員会でメンバーを選定します。
- ストレッチⅠ50代前後(40人程度)
- ストレッチⅡ40代(75名前後)
- ストレッチⅢ30代(100名程度)
選定する時の用件は、海外のビジネス経験や商談の成功成績などの過去の経歴が高く評価をされます。ストレッチのⅠとⅡに属する人材は一年ごとに毎年審議をし、場合によっては入れ替えを行います。彼らをビジネススクールに通わせたり、社外の期間に派遣をします。
それと同時にアドバイザリーボードを社外の人で組織することで、客観性や公平性も保たれるようにしています。
2.良品計画の3つのオリジナルツール
良品計画では、課長以上の人事選抜に関しては、特別な人事委員会で検討を行います。その際に用いられるのが、3つのオリジナルツールです。
1つ目が「プロフィールシート」といって、個人のこれまでのプロフィール(職務経験や社内業績、海外経験など)を管理するものです。
2つ目が、「ファイブボックス」とよばれる人事評価ツール。40人の部長と100人の課長を含むすべての役員が人事異動を議論する際の判断基準になります。ファイブボックスには、潜在能力とリーダー能力の半分が先天的なものという仮説に加え、現場でのパフォーマンスが追加された育成方針の仕組みであり、どのスタッフがどの位置に属しているのかを判断します。ファイブボックスは評価制度ではなく、あくまで社員をどう伸ばせば良いのかの指標として使われています。
そして3つ目が「キャリパー・ポテンシャル・レポート」です。リーダーシップや問題解決能力、意思決定など、組織を引っ張る上で必要になるスキルをグラフ化して個々の特性を引き出していきます。
この3つのツーツを用いて全社員のサクセッションプランが行われているのです。
3.日本IBMの人事区分
IBM Corporationの日本法人である日本IBMでは「ER」、「TR」、「TT」の独自の区分で社員を分け、それぞれデータベース化して管理をしています。
- TT(トップ・タレント)
営業マンとして国内外で非常に優れた成績を残した社員がこの区分です。個々の能力を最大限伸ばすために、あらゆるバックアップを行っています。 - TR(テクニカル・リソース)
Generalistではなく、特定の分野においてスペシャリストになることが期待された社員がこの区分に属しています。TT同様に、さらに特定分野で会社への貢献を高めるべく、必要な資格の取得や、必要によっては外部機関への出向などがあります。 - ER(エグゼクティブ・リソース)
全社員の1割がこの区分に属しています。将来会社を引っ張っていくリーダーとなることが期待されています。年齢に関係なく20代後半や30代などの若手も属しています。そして彼らの企業外部流出を抑えるために、この区分に入っている候補者は、日本IBMのストックオプションが与えらえています。
サクセッションプランに基づいて、後継者が選出されるのはこのERの区分にいる社員です。後継者を決定する際は、現任者である各役員が、長期的な計画のもとで行います。
まとめ
ここまでサクセッションプランの定義から、なぜ重要なのか、そして企業の導入例を見てきました。
これまでの後任登用では、ポジションがそろそろ空きそうだ、もしくは空いてしまった後で、後任を見つけるというのが一般的で、受動的でした。しかしサクセッションプランは、あらかじめ必要なポジジョンに適切な人材を配置するために、何年もかけて人材を育てていくという積極的な戦略です。
企業の人事担当者の皆様は、今回のサクセッションプランを参考にしながら、マネジメント層と協力して、長期的な人事戦略を考えてみてはいかがでしょうか。
TechAcademyでは、従来の講義型研修とは違い、実務を想定したカリキュラムで実践的スキルを短期間で確実に身につけられる法人向けオンラインIT・プログラミング研修を展開しています。
1名〜数百名規模・業界を問わず、900社以上の企業様の研修を実施しています。 受講生一人ひとりに現役エンジニアのメンターが付き、皆様のニーズにあったサポートを行います。学習時の「わからない」を確実に解消いたします。