研修の効果測定はなぜ必要?方法と精度を高めるコツも解説

研修を「実施しただけ」で終わらせないためには、適切な効果測定が必要です。効果測定の指針としてカークパトリックの4段階評価法は非常に有用ですが、実際に評価・分析する上ではさまざまな課題もあります。研修の効果測定の必要性や手法を解説します。

研修を実施しただけで終わらせないためには、適切な効果測定が必要です。効果測定の指針としてカークパトリックの4段階評価法は非常に有用ですが、実際に評価・分析する上ではさまざまな課題もあります。

研修計画の成功のために、効果測定について理解を深めたい方もいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、研修における効果測定の必要性や手法、精度を高めるコツをご紹介します。

 

目次

 

研修後に効果測定はなぜ必要?

資料やノートPCを置いたスタッキングテーブルに肘を乗せ、マイクを片手に話すビジネスパーソンとデータ分析のイメージ

人的資本経営の文脈で研修および人材育成に注力する企業が増えています。研修における効果測定は、人材の成長および企業価値の持続的向上のために必要です。まずは、研修と効果測定はセットで実施するものという考え方を解説します。

今後の研修実施の判断材料にするため

効果測定は今後も研修を実施していくべきかを判断するために必要な材料です。研修は経営戦略に基づく人材育成計画の一環として実施します。経営層にとって重要となるのは「人的資本経営」の観点です。

人的資本経営においては人材を「資本」と捉えて投資し、その価値を最大限に引き出すことで企業価値の持続的向上につなげます。人材育成の手法として研修を用いますが、研修は具体的な成果を証明しにくいため、人的資本経営の成否を判断するには正確な効果測定が必要です。

効果測定により研修で得た知識・スキルが受講者にどのような変化を与えたのか、業績や企業課題の解決にどのように貢献したのか、また研修の総合的な投資効果を判断します。

研修で改善が必要な点を知るため

効果測定により、研修のどのような点に改善が必要かを把握可能です。人的資本経営に基づく研修は、定期的・継続的に実施します。例えば新入社員研修なら毎年の入社時期に実施し、付随するフォローアップ研修も実施することになるでしょう。

企業の抱える課題や社員の特性などには毎年変化があり、人事担当者の経験則や感覚のみで最適なカリキュラムを組むことは困難です。そのため事前計画と効果測定に基づいて改善点を毎回精査し、PDCAサイクルを回す中で研修効果の精度を高め続けることが求められます。

受講者の理解度を把握するため

研修の効果測定は、受講者の理解度を把握するためにも必要です。研修の直接的な効果は、まず受講者に表れます。受講者が研修内容を理解して新たな知識・スキルを習得し、これを実務に応用して業績改善など組織目標の達成につなげるため、研修による受講者の変化を把握することは重要です。

測定結果のフィードバックを得ることでモチベーションやエンゲージメント向上などの相乗効果が生まれ、研修目的をより確実に達成することにつながります。

 

研修の効果測定をしない場合のリスク

研修の効果測定をしない場合、実施して良かった点・悪かった点や何が変わったかを、誰も正確に判断できません。これには以下のようなリスクがあります。

  • 受講者が納得感を得られず、スキルの習得や発揮に意欲的に取り組めない
  • 上司や先輩社員が研修効果を理解できず、非効率あるいはぞんざいな教育から脱却できない
  • 個人目標と組織目標を関連付ける重要な指標が得られない
  • 職場にとって研修が押し付けがましいものになり、エンゲージメント低下や退職リスクの増大を招く
  • 同じまたは不適切な内容の研修を繰り返し、企業の課題や状況に応じた最適化が行われない
  • 経営層が研修効果を理解できず、予算縮小により研修の実施自体が難しくなる
  • 投資家に人材育成の状況を適切に開示できず、市場競争力が低下する

 

研修の効果測定で評価するポイントは?

ノートPCを前に相談する2人の女性とデータ分析のイメージ

研修の効果測定のフレームワークは、「カークパトリックの4段階評価法」が一般的です。これはアメリカの経営学者ドナルド・カークパトリックが1950年代に提唱したもので、研修を「反応」「学習」「行動」「結果」という4段階で評価します。高レベルになるほど評価は困難ですが、より重要な情報を含むと考えるのがポイントです。

【評価レベル1】反応

レベル1の「反応(Reaction)」は、受講者が研修にどれだけ満足しているかという評価基準です。受講者にとって、研修が有用・魅力的で自身の仕事に関連性があると感じる度合いを評価します。

レベル1は研修終了直後のアンケートやヒアリングなどで、受講者の感想や満足度を評価する方法が一般的です。受講者の満足度が低ければ研修の見直しが必要です。結果を真摯に受け止め改善に努めましょう。

【評価レベル2】学習

レベル2の「学習(Learning)」は、受講者が研修から何を学んだかという評価基準です。研修に参加することで、意図された知識やスキルがどの程度身に付いたかを評価します。

レベル2は一般的に、研修当日から数日後までに理解度テストや研修レポートなどで評価します。あくまで研修直後の状態変化を測るため、本来期待される職場での行動変容や業績向上などの結果に結び付くとは限りません。

【評価レベル3】行動

レベル3の「行動(Behavior)」は、受講者が研修で学んだことを実践できているかという評価基準です。つまり研修による受講者の行動変容を評価するものです。職場での行動観察などが求められるため、評価はやや困難になります。

また行動の定着を測る必要があるため、研修直後には評価できません。3か月や6か月などのスパンで、一定期間内に研修の成果としての行動変容が見られるかを評価します。

【評価レベル4】結果

レベル4の「結果(Result)」は、研修で目標とする成果をどの程度得られたかという評価基準です。売上アップやチーム内の連携強化など、定量的または定性的な評価指標をあらかじめ設定しておき、実際に研修がその成果に結び付いているかどうかを評価するものです。

ただし、純粋に研修の成果といえる度合いを分析するのは困難を伴うでしょう。研修から数か月以上経過しなければ判断できない場合も多く、評価方法を綿密に計画することが必要です。

 

研修の効果測定を行う手法は?

手に持った資料に向かって議論する2人のビジネスパーソン

研修の効果測定はさまざまな手法を組み合わせて実施します。よく用いられるのは、アンケートや理解度テストで、インタビューや行動観察、ROI分析などの方法もあります。ここでは、それぞれの手法がどの評価レベルにどのように活用されるかを見ていきましょう。

アンケート調査

アンケート調査は、レベル1の「反応」の効果測定によく用いられる手法です。研修後に受講者アンケートを取り、研修の内容・難易度・方法や講師の質などについて、どの程度満足できたかを調査します。同時に、研修の改善点などについて自由記述式で意見を収集することも可能です。

他にもレベル3の「行動」の効果測定について、受講者の上司や同僚に対してアンケートを取り、意図したスキルや行動を発揮できているかを調査することにも用いられます。

理解度テスト

理解度テストは、レベル2の「学習」の効果測定に用いられる手法です。アセスメントテストや習熟度テストとも呼ばれます。研修が複数回にわたる場合、毎回の研修時に小テストを実施し、プログラム終了後に総まとめのテストを実施することもあります。

プログラミング研修の場合は実際にコーディングの課題を用意し、バグがなく目的の機能を実装できるかを試すことも可能です。

インタビュー

インタビューは汎用的な手法です。レベル1の「反応」やレベル2の「学習」の効果測定に用いる場合、研修の満足度や学び・気付きをまとめてヒアリングできます。1on1だと時間はかかりますが、理解度テストだけでは判断できない態度やマインドへの影響を測ることも可能です。

レベル3の「行動」の効果測定において、職場内での行動変容を受講者本人や職場の同僚から1on1でヒアリングすることもできます。

ROI分析(投資対効果分析)

ROI分析は、投資した資本に対してどれだけの利益が得られたかを測る手法です。レベル4の「結果」の効果測定に用いられます。研修についてのROI分析は、かかったコストや人的な支援に対して、生み出された価値および投資効率を評価するものです。

一般的な評価指標は、販売量や利益など業績向上に関するものです。受講者が有益なアイデアを出したり投資家から高評価を得られたりするなど、受講者自身の価値が向上している場合、投資効率が高いと考えることもできます。

行動観察

行動観察は、レベル3の「行動」の効果測定に適した手法です。研修実施前後の行動の変容を現場で経過観察し、意図されたスキルや行動を発揮できているかを評価します。

行動観察の評価ツールは、アンケート・ヒアリング・チェックシートなどです。教育担当者だけでなく上司や同僚に対して一律でアンケートやヒアリングを実施し、現場での行動変容を多角的に分析します。あらかじめチェックシートを用意しておき、教育担当者などが定期的・継続的に変化を追い続けることも可能です。

成果の確認

レベル4の「結果」について、ROI分析が複雑過ぎるなら、KPI(重要業績評価指標)を評価する方法もあります。

例えば業績向上が研修のゴールの場合、そのために必要な部門ごとの数値目標を設定し、受講者個人の実績評価とリンクさせる形です。KPIは財務指標だけを対象とするものではなく、契約件数・生産個数・在庫回転率・クレーム件数・顧客満足度など、部門ごとの課題に対応する指標を設定できます。

KPIを研修の評価指標として活用する場合、あらかじめ個人の目標管理の仕組みも作っておくことが大切です。

 

研修の効果測定の精度を高めるコツは?

大型スクリーンを前に講義する女性ビジネスパーソンと、スタッキングテーブルに着座した複数のビジネスパーソン

研修における効果測定の精度を高めるには、入念な事前準備が必要です。自社に最適な測定方法が判断できないからといって、見切り発車では失敗します。ここでは、研修の効果測定の精度を高めるためのコツを紹介します。

研修は目的を決めてから実施する

目的を明確化せずに実施した研修は、目的と成果のギャップの正確な測定が困難です。効果測定の精度を高めるには、研修の目的を決めておくことが重要です。

また目的が曖昧だと、何のために何を教育訓練すべきかを正確に判断できません。カリキュラムは受講者にとって納得感のあるもの、職場で実際に応用できるもの、企業の課題解決につながるものであることが必要です。まずはしっかりと研修の目的を決めます。

効果測定の狙いを明確化する

研修そのものを評価するのか、研修の成果を評価するのかでは、効果測定の観点や適切な測定方法が異なります。このため研修における効果測定の狙いを明確化することも大切です。

研修そのものを評価する場合、レベル1の「反応」を重視することになるでしょう。研修の成果を評価する場合、レベル3の「行動」やレベル4の「結果」における研修を受けた後の行動変容および企業への影響を重視します。

いずれにせよ効果測定そのものが目的とならないように、研修の内容や達成すべき目標をしっかりと計画することが大切です。

比較する対象を決めておく

ROI分析では必然的に求められることですが、受講者の比較対象となるグループを設定しておくこともポイントです。

非受講者と比較することで差異がわかるようになり、研修による効果測定がしやすくなります。研修の良かった点や悪かった点がより明瞭に見えるようになり、フォローアップ研修や次回研修の改善などに役立ちます。

行動や結果だけで判断しない

研修効果として本質的なものは、レベル3の「行動」やレベル4の「結果」における効果測定に現れます。ただしレベル1の「反応」やレベル2の「学習」を軽視すべきではありません。

実際に研修を受講し変容するのは受講者自身であるため、受講者にとって望ましい研修であることは重要です。短期目標の達成にはつながらないカリキュラムでも、将来的なキャリアアップに必須のスキルを学べる場合もあるでしょう。研修は結果的に企業のためになる取り組みですが、まず企業価値の源泉となる人材のために何ができるのかを考えることも大切です。

受講者や社内から協力を得る

レベル3の「行動」の効果測定において、行動観察には職場の協力が求められます。しかし研修結果は研修後すぐに現れるとは限りません。目立った成果につながらないと、関係者が研修自体やその参加者を否定的に見るようになり、受講者が前向きに研修および行動変容に取り組みにくくなる恐れもあります。

このため職場の上司や同僚などから理解と協力を得られるような関係性の構築も大切です。受講者の成長を支える協力関係を築くことで、効果測定が容易になる上、受講者自身の自己肯定感・学習意欲やエンゲージメントの向上につながります。

研修の効果測定に定評のあるサービスを活用する

研修の効果測定にはさまざまな困難があります。研修計画を検討した結果、自社にとってどのような効果測定がベストか判断できないこともあるでしょう。

こういったケースの課題解決には分析結果から何が見えるか明示し、課題やアドバイスを提示してくれるサービスを活用することが有効です。メンタリング・アセスメントテスト・評価レポートなどの運用に習熟した、実績のある研修会社をパートナーとすることで、効果測定の精度が上がり人材育成の成功に近付きます。

 

まとめ

大型ディスプレイに表示されたグラフに視線誘導しながら、マイクを片手にカメラ目線で話す女性ビジネスパーソン

研修の効果測定は、研修自体や成果の評価、持続的な計画改善のために必要です。人的資本経営を推進し、企業価値の持続的向上を目指すためにも、人材育成に関する情報の精査と開示が求められます。

カークパトリックの4段階評価法は、効果測定の指針として非常に有用です。自社にとって最適な効果測定の方法が判断できない、または運用に不安がある場合、実績豊富な研修会社を活用することも検討しましょう。

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