エンプロイアビリティとは?育成する必要性や方法を解説【IT企業人事向け】
エンプロイアビリティについて解説しています。メンバーのエンプロイアビリティを高める重要性や方法、人事評価の方法なども説明しています。人事初心者の方は必見です。
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「これからのビジネスマンに求められているのは、エンプロイアビリティを高めることだ」と言われています。
“エンプロイアビリティ”とは何を指すのでしょう?
メンバーのエンプロイアビリティを高めることが企業に求められるとの声もあります。
なぜエンプロイアビリティの育成が必要なのでしょうか?本記事で解説していきます。
なお本記事は、TechAcademyの法人向けIT研修での実績をもとに紹介しています。
目次
エンプロイアビリティとは
エンプロイアビリティは、直訳すると「雇用される能力」です。
以下のような能力を指します。
- 労働市場における就業能力
- 社会的に通用する能力
- 企業が雇いたいと考えるような能力
employabilityという単語自体、ここ10年ほどの間にできた新規単語です。経済学用語として使われています。
具体的にはどういうことなのでしょうか?
エンプロイアビリティには2つの側面があります。
- 雇用され続ける能力
- 新しい職場に異動、転職できる能力
「雇用され続ける能力」というのはわかります。
雇用する側から見ると、業務をうまく回してくれる人材はありがたいです。そのためには、会社での人間関係を把握し、うまくコミュニケーションを取りつつ、根回しをして仕事を進める能力や経験、自社商品の強みを熟知することなどが求められます。
では、メンバーの転職できる能力を企業が育成するとは一体どういうことでしょうか?
「メンバーに力をつけてもらった結果、あっさり他社に転職されてしまったら責任問題になってしまうのでは?」と思った方もいるでしょう。
実は、進化の激しいIT業界を戦い抜くには、「他社に転職できる力を持つ人材」を、メンバーに身につけてもらう必要があります。
組織内部だけでなく、広く業界で通用する知識や技術を持つ人材。
必要な技術を吸収する学習意欲、未知の仕事にチャレンジする熱意や意欲をもつ人材。
例えば、JavaやRuby、PHP言語など、IT業界で一般的に使われるプログラム開発技術を持っていること。
今後、爆発的に発展が見込まれる人工知能や機械学習などのAI分野に進出するために、グーグル発のオープンソースのAIプラットフォーム・TensorFlow(テンソル・フロー)、AI分野開発に強いと言われるPython言語などの習得、AIにつながるIoT技術の習得のため、異なるシステムを接続するインターネット技術などを貪欲に学ぼうとするマインドが重要になってきます。
これらエンプロイアビリティは、どのように評価すれば良いのでしょうか?
エンプロイアビリティによる人材評価のメリット、デメリット
厚生労働省の調査研究「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」によると、エンプロイアビリティの評価項目は3つに分類されます。
- 職務遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
- 協調性、積極的等、職務遂行に当たり、各個人が保持している思考特性や行動特性に係るもの
- 動機、人柄、性格、信念、価値観等の潜在的な個人的属性に関するもの
このうち3の動機、人柄、性格、信念、価値観は、具体的・客観的に評価することが難しい項目です。
また、1の職務遂行に必要となる特定の知識・技能については、IT業界など技術進歩が激しい業界では評価基準が陳腐化しないように、技術進歩に合わせて評価基準もアップデートしていく必要があります。
メンバーのエンプロイアビリティを高めることは、企業が雇い続けたい、他社が欲しがる人材育成につながるメリットがある反面、評価が難しいのがデメリットなのです。
エンプロイアビリティの種類
エンプロイアビリティについてもう少し詳しく見て行きましょう。
絶対的エンプロイアビリティ
コミュニケーション力や対応力など、仕事全般に対して通用する能力要素を指します。
実務経験を積んで「場数を踏む」ことで蓄積されるもので、絶対的エンプロイアビリティが高いと組織の中枢となる人材への成長が期待できます。
経験によって得られたコンピテンシー(強み)は、長い時間をかけて蓄積されるため、一朝一夕で身につくものではありません。
相対的エンプロイアビリティ
市場動向によって左右される相対的な能力要素です。
一言で言うと、「現場で通用する知識・技術」
新しい技術をすぐに吸収するなど、短期間で習得できることが評価されます。
技術の進歩が速いIT技術業界では、数年前まで主流だった技術が、「現場では使えない技術」になってしまうことも少なくありません。
需要の変化に対応して、評価基準も合わせて変えていく必要があります。
例えば、Kaggle(カグル)という、ネットから参加できる機械学習モデルを競い合うコンテストがあります。
先進的な企業の中には、Kaggleの上位者にインセンティブを与えて器用に迎え入れたり、勤務時間を使ってKaggleに参加することを認める企業も出てきました。
内的エンプロイアビリティ
青山学院大学経営学部教授の山本寛氏によると「社内で評価され、雇用され続けること」を指します。
会社で扱う商品知識など、主にその企業に特化した「企業特殊能力」の蓄積が求められます。
企業サイドにとっては高めて欲しい知識・能力と言えますが、労働者サイドにとっては、魅力・メリットを感じない内容と言えるでしょう。
外的エンプロイアビリティ
社外での雇用、転職を可能にする能力を指します。
企業にとっては「他社に転職できる能力が高まるなんて困る」というのが正直なところ。
しかし、日本はアメリカと比べて「高いスキルを持っていれば、高評価・高年収につながる」というほど転職市場が育っていません。
どちらかというと、「できれば、終身雇用してもらいたい」という人の方が多いのが現実です。
外的エンプロイアビリティを高めることは、スキル・知識を高めて他社へ転職できるほどの知識・能力を身につけて、自社で良い仕事をしてもらうこと。
会社外でも通用する能力が身についているかどうか評価するにはどうすればいいのでしょうか?
人事評価でもある程度採用されているのが、資格取得です。
「○○の資格を持っています」というのは指標としてはとてもわかりやすいです。
しかし、一般的に企業としては、資格をどの程度重視するのでしょう?
ニッセイ基礎研究所が1999年~2000年にかけておこなった「ホワイトカラーの転職市場をめぐる現状と課題 ニッセイ基礎科学研究所」という調査があります。全国上場企業約3,300社の中から2,100社を対象としてアンケートを取り、中途採用募集に何を一番重要視するかを聞いたのです。
1位は年齢、2位は職務の経験。公的資格や免許の有無を重要視した企業は14.1%でした。
2007以降、年齢を理由に採用を断ることは、雇用対策法で禁止となっているので、職務経験がもっとも重要視されていると考えられます。
採用面接で、具体的に担当した職務について話してもらいます。実務経験者はいくつか質問をするだけで、仕事が出来る人かどうか短時間でわかります。
日本型エンプロイアビリティ
法政大学経営学部教授の藤村博之氏によると、エンプロイアビリティという言葉は、もともとイギリスで生まれました。
当時、1973年の第一次オイルショックでイギリス経済は停滞。失業率は10%を超え、父親も母親も失業し、社会保障給付で生活する家庭が増えました。
そこで衝撃の統計結果が発表されます。
両親とも失業している家庭で育った子供は、失業者になりやすい傾向があるというものです。
理由は、企業に雇われて働くとはどういうことかを学ぶ機会が少なくなるため。
決められた時間に職場に行くという、雇用労働者の基本行動ができない若年層が出てきたのです。
そこで、「雇用労働者として働くための基本を身につけましょう」という意味でエンプロイアビリティという言葉が使われ始めました。
イギリスで普及しているNVQ資格制度は、労働者としての基本を身に付けるために活用されています。
その後、アメリカにエンプロイアビリティという言葉が伝わりました。
アメリカでは、言葉の意味合いが少し変わっています。
1990年代のIT産業革命で、IT革命についていけない人が多数解雇されることになりました。IT技術に対応できない人の再就職先は前職よりもはるかに賃金の低い仕事。
年収600万円の人が、再雇用先では年収300万円になるという実態が出てきました。
企業側としては、これまでのように半永久的な雇用はできない。しかし、それだけでは人が離れていく一方。そこで、長期雇用に代わる労働スタイルを考えだしました。
「永久雇用は約束できない。だけど、代わりに他社でも通用するスキルを身に付ける機会を与えます」というもの。
労働者サイドでも、新しい技術に対応できるか否かで、再就職の可能性や年収が大きく異なるため、企業に買ってもらえるような能力を身につけていることが重要という認識になりました。
雇用側、労働者側双方に取って、フェアなオファーと言えるでしょう。
日本でも1999年ごろからエンプロイアビリティという言葉が使われるようになりました。アメリカとは、さらに状況が異なります。
日本では、アメリカのようにIT技術についていけないとすぐに解雇されることはありません。しかし、企業間の競争が激しくなる中、企業にとって必要な能力を持たない従業員を雇用しつづけることは問題です。
経営者サイドとしては、すぐに解雇できないなら今いる社員を教育するしかないという考えになったのです。
しかし、ただ「教育を受けろ」と言っても、労働者側には受け入れられません。
そこで登場したのがエンプロイアビリティの考え方。
エンプロイアビリティを高めることで、企業側にとっては現在の会社でより良い仕事をしてもらうことになります。
労働者側にとっては、万が一の場合にも他社で仕事を見つけやすくなるというメリットがあります。
そのため、経営者も労働組合も労働者も、良い仕事を続けていくには、エンプロイアビリティの向上が重要と考えるようになってきました。
職務内容ごとに異なるエンプロイアビリティとは
法政大学経営学部教授の藤村 博之氏によると職務別、業務内容ごとに重要視する項目は異なっていることがわかっています。
管理職と事務職では、もっとも重要視するのが職務経験。専門技術職では、専門知識・スキル。販売・営業職では、職務経験に加えて、熱意や意欲が重要視されているというのです。
職務が違う人のエンプロイアビリティを判断する指標の、参考になりそうな仕組みとして、以下があります。
- 生涯職業能力開発体系
- ビジネス・キャリア制度
- 全国技能基準システム(アメリカ)
生涯職業能力開発体系
独立行政法人・基盤整備センターが作成している技術体系。1999年度から、雇用・能力開発機構と全国の事業主団体等とが共同で内容の精査をおこなっています。
この体系は、技術中心。
エンプロイアビリティの能力要素である協調性、積極性などの職務遂行にあたっての思考特性や行動特性はカバーされていません。
ビジネス・キャリア制度
ホワイトカラー労働者(事務系職種)に必要な専門知識を8分野別にBASIC級+1~3級にランク付けし、約40の試験単位に分類。
分野は、以下の通り。
- 人事・人材開発・労務管理
- 経理・財務管理
- 営業・マーケティング
- 生産管理
- 企業法務・総務
- ロジスティクス
- 経営情報システム
- 経営戦略
2007年に、公的資格試験のビジネス・キャリア検定試験としてリニューアル。
技術、知識に加えて、考え方についてもカバーされています。エンプロイアビリティの指標ベースとしては一番の有力候補。
全国技能基準システム(アメリカ)
産業ごとに各職業ごとの「知っていなければならないこと」「できなければならないこと」を分類した技能標準。
全国技能基準委員会(NSSB)によって、分類。国ではなく産業界が策定しているため、基準の改正を柔軟に行うことができるのが特徴でした。
しかし、2003年頃まで存在していたようですが、現在は消滅。
今は、global skills x-changeという民間会社がスキルの標準化を進めているようです。
エンプロイアビリティを適切に評価するには?
現在、エンプロイアビリティを十分に評価する仕組みは存在しません。
現実的な方法としては、既存の評価システムをベースに不足している部分を補う仕組みが必要になるでしょう。
2001年の厚生労働省発表調査研究報告書から現在まで、エンプロイアビリティを網羅した評価基準は出来上がっていません。
エンプロイアビリティ自体を評価する仕組みをつくり上げるというより、社員教育の一環としてメンバーのスキルアップに取り組み、会社への貢献に応じた人事評価を行うのが良いでしょう。
エンプロイアビリティの重要性
エンプロイアビリティの高い人ほど、雇用され続ける力が強く、配置換えなどの環境の変化にも強く、所属する企業に利益をもたらす人材とされています。
自己効力感(目標に向かって、自分が必要な行動を取れるいう自信)、精神的健康・生活満足感の向上、職務満足(自己のキャリアに対する満足)が出てくるというのです。
エンプロイアビリティを高めることは、メンバーにポジティブに働くということです。
社内には、「エンプロイアビリティを高めて、社員がこぞって転職したらどうするんだ」という声もあるでしょう。
そこで、一度立ち止まって考えてみましょう。
「転職なんか絶対失敗するぞ。確実に年収下がるし、雇ってくれる会社なんかウチくらいだよ。おとなしく働いておけ」と言う会社。
「皆さんには、他社でも通用する力をつけてほしい。そのうえで、ずっとウチで働きたいと思ってくれる環境を作っていきます。」と言う会社。
働き手に選ばれるのはどちらでしょうか。
まとめ
今回はエンプロイアビリティについて紹介しました。
多くの種類を解説しましたが、要は「社員のスキルアップを奨励して企業を安定・成長させましょう」という単純なことなのです。
実際、メンバーのエンプロイアビリティを高めることはそう難しいことではありません。
具体的には、補助金や研修休暇などの制度を整えることで、社員が積極的にスキルアップに挑戦できるようにしましょう。
他にも、プログラミング研修の提案や講師を招いてのセミナーを開催するなど、企業側からメンバーのアクションの入り口を作ってあげることも非常に有効な手段です。
そうすればメンバーの成長だけでなく、結果的に、安定した人材定着や制度に惹かれた優秀な人材が集まる企業になることでしょう。
TechAcademyでは、従来の講義型研修とは違い、実務を想定したカリキュラムで実践的スキルを短期間で確実に身につけられる法人向けオンラインIT研修を展開しています。
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