テックアカデミーの第一期生としてRuby on Railsコースを受講した卒業生に、プログラミングを学習することになった理由や受講後の働き方、今プログラミングを学ぶ意義について、キラメックス代表取締役社長の樋口が話を伺いました。(※記事に記載している内容は2023年6月時点の情報です。)

1分でわかる記事要約

テックアカデミーを受講した理由:入社を予定の企業でエンジニアとして働くことが決まっており、そこで使われているプログラミング言語を学ぶため。
AIが注目される今プログラミングを学ぶ意義:プログラミングは何かを実現させるための手段の1つ。AIに教えたり指示するための技術や、技術が正しいかを判断するためにはプログラミングスキルや知識が必要。エンジニアにならなくとも、効率化、売上を上げるためのツールを作るためにも理解した方が良い。

話してくれた人

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李 天琦(リ・テンキ)さん(33)
大学4年生の時にRuby on Railsコース(8週間コース)を受講。その後、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)にエンジニアとして入社し、約4年間AIの開発に従事。大学生の頃から不動産投資やAIに興味があり、DeNAの支援を受けて独立。不動産データを活用したAIのソフトウェア開発を行う株式会社DEVEL(以下、DEVEL)を創業。その後、株式会社シーラ(以下、シーラ)と資本提携により株式売却・完全子会社化し、株式会社SYLA BRAIN(以下、シーラブレイン)のCEOとなる。

大学生だった第一期生が上場企業のエンジニアを経て、起業

ーー李さんご自身について教えてください。

中国生まれで、小学生の頃に来日してから現在に至るまで日本に住んでいます。
プログラミングが好きで大学ではAI(人工知能)を研究していました。大学4年生の時に、テックアカデミーの第一期生として「Ruby on Railsコース(8週間)」を受講しています。

社会人になってからは、DeNAのエンジニアとしてゲーム会社のサーバー開発に携わった後に、4年ほどAI開発を行っていました。その後退職し、DeNAの支援を受けDEVELを創業しました。DEVELでは約1年半ほど一人で不動産データを活用したAIのソフトウェア開発を行っていたのですが、有木(現在のシーラブレインのCOO)から声がかかり、主に不動産売買事業を展開するシーラと資本提携しました。そして当時上場準備をしていたシーラの親会社のシーラテクノロジーズへ株式売却・完全子会社化を行いました。

現在はシーラテクノロジーズのグループ会社として、シーラブレインの代表取締役CEOを務めています。私がグループにジョインした後、シーラテクノロジーズは米国ナスダック市場への新規上場が承認され、2023年3月31日に上場しています。

ーーシーラブレインはどのような事業をされているのでしょうか。

主に4つの事業を行っています。

(1)不動産データを収集・分析するシステム『利回りくん AI』の開発、及びそれを活用した不動産投資
(2)機械学習アルゴリズムの開発及びRPA・業務システムの開発
(3)法人向け業務自動化やAIシステム導入に関するコンサルティング
(4)不動産投資や資産運用に関するコンサルティング

『利回りくん AI』は、DEVELの時に開発していた不動産AIのソフトウェアが前身となっています。
また最近ではChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)を活用したオリジナルのチャットボット構築ができるシステム『GOD GPT』の開発なども行っています。

誰にも負けたくないという思いから中学生でプログラミングを学習

ーー李さんが初めてプログラミングを始められたのはおいくつの時でしょうか?

中学生の時です。ゲームやパソコンが好きだったのですが、とにかく負けず嫌いな性格だったので他人ができない手段を使い、一番になることを目指していました。そのためにはゲームの仕組み、構造、サーバー、パラメーターの置き換えなど、プログラムそのものについて理解する必要があったため独学しました。

ーーどのように学習されたのですか?

インターネットで調べたり、古本屋で書籍を買って学習しました。スクールのように基礎から学ぶような体系的な学習はせず、ゲームでの操作方法やWebサイトの作り方など、目的を達成するための最短ルートを考え、最低限の学習をしていました。

ーー周囲にプログラミングができる方はいましたか?

いえ、プログラミングなどの話ができる友人や、プログラミングについて聞ける相手は全くいませんでした。Webサイトの基礎となるHTMLやCSSなどを学び、Webサイトが作れるようになってからは、当時流行っていたポータルサイト兼ソーシャル・ネットワーキング・サービスの似たようなWebサイトを作り、アフィリエイトで月に100万円ほど収益を生み出しました。

ーー中学生で月100万円!すごいですね。

「誰にも負けたくない」、「お金を稼ぎたい」という気持ちが大きな原動力になっていました。あとは父が中国トップレベルのピアニストだったので、私は世界的ピアニストになるために幼い頃から毎日10時間ピアノを練習していたのですが、途中でそれが嫌になったこともプログラミングにハマった大きな要因でした。その後はピアノの代わりに、自分の好きなことを学習するようになりました。

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東京工科大学で成績上位者としてAIや不動産について学ぶ

ーー大学ではAIの研究をされていたとおっしゃっていましたね。

はい。ただ実は高校を卒業してすぐAIを学び始めたわけではなく、最初は文系の大学に通っていました。しかし約半年で退学し、無職になりました。退学後は動画配信サービスにのめり込み、ここでも中学生の時と同じように他人ができないような動画を作って注目を集め、ランキング1位になったこともありました。
ただ両親から金銭の支援がなく無職だったこともあり、退学してとうとう数ヶ月後にお金が底を尽きたんです。その時は焦って「人生をやり直そう」と考えるようになりました。プログラミングが好きだったこともあり、自分は技術系の道に進むべきだと思ったんです。それから本腰を入れて学び直した結果、翌年に東京工科大学に入学することができました。

ーー強い思いがあったからこそ、行動や結果に繋がったのだと思います。

何とか無事に合格することができてよかったです。東京工科大学ではAIを専攻しました。プログラミングだけでなくAIに必要な知識として、コンピュータサイエンス、工学、数学(微分積分、確率論など)についても学んでいました。私が大学生だった当時は今ほどAIが流行しておらず、「これからAIの機械学習の方法はディープラーニング(深層学習)が主流になるのではないか」と言われ始めていた時期でした。東京工科大学には入学料・授業料が免除になる制度があったのですが、成績上位者が対象となるため、大学時代は勉強ばかりしていました。

ーー学業に専念されていたのですね。

はい。AIなどのデジタル技術だけでなく、友人の影響で不動産や投資の領域にも興味を持ち始めました。そこからは不動産投資を始めたり、自身で不動産データを活用したAIを作るようになりました。それが今の私の仕事の原点となっています。ベンチャーキャピタルのハッカソンにも何度か参加しました。

ーー大学生の頃から起業は考えていましたか。

はい。ただ今すぐではなく、数年後に起業する道を考えていました。
不動産投資で成功するには銀行融資が不可欠で、融資審査に通りやすくするためにも、いきなり起業するよりもまずは上場企業に就職した方が与信面で有利と考えていたためです。
就職活動を経て、大学4年生の時にDeNAのエンジニアとして内定を頂きました。エンジニアの技術力が高いことや、起業志向の社員が多いことを知り、社風に惹かれてDeNAへ入社を決めました。

ーー李さんがテックアカデミーを受講されたのも大学4年生の時だと思うのですが、受講理由について教えてください。

DeNAの内定が決まった後にテックアカデミーを受講をしました。というのも、元々Pythonなどのスクリプト言語については大学で学んでいたのですが、企業の実務で使うような言語は学んでいませんでした。そもそもRuby on Railsを教えている大学自体が少なかったように思います。DeNAは入社してからRuby on Railsを使うという話があったので、学生のうちに学習したいなと思っていたところ、たまたまSNSでテックアカデミーを知り受講を決めました。

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就職先の企業で使うプログラミング言語をテックアカデミーで予習

ーー受講していかがでしたか?

1つの教材に基礎から実践的な内容までコンパクトにまとまっている点がよかったです。
Ruby on Railsのアプリを作ったりと、短期間で効率よく学ぶことができました。当時オンラインプログラミングスクールは少なかったと思うのですが、受講してよかったです。

ーー印象的だったことはありますか?

私自身、プログラミングは短期集中で取り組む方が向いているのですが、8週間の受講期間よりさらに短い期間で一気に学習しました。その時担当だったメンターの方に、実務面でのわからないことをまとめて質問することができたり、実務での応用について教えてもらえたことが印象的でした。

プログラミング言語の基礎はテキストなどでも学べると思うのですが、誰かに聞くことができる環境がないと、実務で必要なスキルを身につけることは難しいと思います。テキストに書いていない慣例、作法、ルール、現場でのベストプラクティスは経験者に聞く方が絶対に良いですね。

ーーテックアカデミーのメンターは全員現役エンジニアなので、カリキュラムでわからないことだけでなく、実際の現場や実務に関連した話をすることも推奨しています。

まさに現役エンジニアに直接聞くことができるという安心感がありました。最後までやり切るためのサポートにも繋がりますし、初心者はメンターがいる・いないでモチベーションに差が出るのではないかと思います。

ーー就職後、テックアカデミーで学んだことは役立ちましたか。

はい。DeNAに就職し、入社してから半年はゲーム会社のサーバー開発していたのであらかじめRuby on Railsを学んでおいてよかったです。入社後も技術面でのスキルアップのため学習する機会が多かったのですが、まずはドキュメントで学び、実務面での細かいことを周りの経験者に聞くようにしていました。

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大学生の頃から始めた不動産×AIのソフトウェア開発が事業に

ーーDeNA入社後も、AIの学習をされていたのですね。

はい。入社半年後のタイミングで、会社として積極的にAIに力を入れることになったのです。新たにAI関連の部署ができ、大学でAIを専攻していたため初期メンバーとして手を挙げました。そこでAIの開発を4年ほどしていました。

ーーどのようなことをされていたのですか。

日々AIに関連する論文を読んだり、自分達が開発した技術を論文やPowerPointにまとめて、海外の学会で発表するなどしていました。他にも、カメラの技術とAIの技術を組み合わせて人の骨格を自動認識するオープンソースをGitHubで公開して海外のエンジニアも使えるようにしたり、アニメーターの業務負担を減らす目的でAIで自動画像生成してくれるというシステムを大手アニメーション会社と一緒に開発していました。

ーーかなりやりがいのある仕事だったと思うのですが、なぜこの後起業されたのですか?

仕事自体は楽しかったのですが、大学生時代から続けていた不動産投資が上手くいき、資金がある程度貯まったこと、そして30歳になった節目のタイミングということもあり、このタイミングで独立することを決意しました。先ほどのAI関連の学会などで横の繋がりが広がり、ソフトバンクグループ100%ファンドとDeNA100%ファンドから資金調達を行うことができました。両社から起業することに対して背中を押してもらえたことも理由の1つです。

ーーそれでDEVELを設立したと。

そうです。不動産やAIでも”development(開発する)” という言葉を使うと思うのですが、DEVELはそこから生まれています。日本の不動産データをリアルタイムで集め、割安か割高か自動で解析するAIのソフトウェア開発を行っていました。簡単に説明すると、1つの物件がいくらで売りに出されているのか、坪単価、平米単価などの情報をAIに学習させて、割高か割安かを自動で判断させるというものです。それが現在シーラブレインの事業として行っている『利回りくんAI』の原型となっています。

ーー李さん、そしてDEVELの技術力に価値を感じたシーラテクノロジーズ側からM&Aのお話があったのでしょうか?

事業を売却することになった背景としては、現在シーラブレインのCOOとして一緒に働いている有木に声をかけられたことがきっかけです。当時シーラテクノロジーズは上場準備をしており、”不動産投資の民主化。人生100年時代をテクノロジーと家賃で豊かに。”というミッションの元、今後不動産テクノロジーの側面をより強化していきたいというタイミングでした。

その後、シーラと話が進み資本・業務提携を締結しました。そしてシーラの親会社であるシーラテクノロジーズのグループ会社となり、シーラブレインが生まれました。

ーー現在に至るまでのお話を詳しく教えていただきありがとうございます。

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プログラミングは何かを実現するためのツールの一つ

ーー李さんはAIなどの最新技術に日々触れられていると思うのですが、今後エンジニアの仕事はどう変わると考えていらっしゃいますか。

かなり先ですが、30年後はAIの技術が進化しエンジニアそのものがいなくなる可能性があります。
今はやりたいことをエンジニアに開発してもらうことが当たり前ですが、将来的にはAIに依頼すれば何でも作ってもらうことができる未来になると想像しています。現時点ではAIを作るのはエンジニアの役目ですが、いずれはAIをAIが作る時代が来ることでしょう。
そのため、コーディングするだけのエンジニアの仕事はだんだんなくなっていくと考えています。

ただ、まだ現状ではAIにできることは限られているので、いきなりそのような世界にはなるのではなく遷移していくと思うのです。いずれはプログラミングを使わなくてもいい世界になると思いますが、現時点ではAIに教えたり指示するための技術や、技術が正しいかを判断するためにもある程度のプログラミングスキルや知識は必要になるでしょう。

最近ではChatGPTに指示してコードを書いてもらったり、エラーを見つけてもらったり、技術書の要約をしてもらうなど、エンジニアの業務やスキルアップの方法も変わってきています。

ーーこれからプログラミングを学習しようとしている人へメッセージをお願いします。

プログラミングは何かを実現するためのツールの一つに過ぎません。
これからプログラミングを学ばれる方にはぜひ、自己実現のために必要な手段=プログラミングであるという意識を持っていただければと思います。プログラミングを学ぶことがゴールではないのです。

プログラミングという技術があるだけで強い武器になるので、何かやりたいことなどが具体的にある人には学習することをおすすめします。エンジニアにならなくとも、効率化、売上を上げるためのツールを作るためにもプログラミングの知識が必要になるので、学ばないよりは学んでおく方が良いですね。

ーーありがとうございました!

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