テックアカデミーのUnityコースを受講された古田さん。ジャマイカで働きながらアプリ開発を学びオリジナルアプリをリリースしています。

プロフィール:古田優太郎
1991年生まれ。ジャマイカ在住。青年海外協力隊を経て、ジャマイカで現地採用。さらには現地で学習塾を運営するために起業。TechAcademy Contest 2018 Fallのプログラミング部門において、最優秀賞を受賞。

ジャマイカの学校で数学教育の指導を行う

――まず最初に、自己紹介をお願いします。

古田優太郎と申します。現在ジャマイカの教育省で、現地の教員に対して数学教育の指導を行っています。
もともと青年海外協力隊として今年の6月まで活動していまして、そのまま活動先だった場所で現地採用された形になります。
また、現在の教育とは別に新しい仕組みを作りたいと思い、学習塾を作るために起業しました。
 
――ボランティアから現地採用へ至った経緯を教えてください。
 
特に教育の分野でブルー・オーシャンな部分があるなと思っていました。数学教育に関してはレベルがまだまだ低くて改善の余地があるというところと、プログラミング教育という点でもほとんどされていないような状態でした。その分野で日本人として違いが作れるんじゃないかというチャンスが見えたため、大きい決断ではあったのですがチャレンジしてみようと思いました。

――実際の業務内容などはボランティアのときと違いますか?
 
ボランティア時代の活動がそのまま仕事になった形ですね。ボランティアは2年間やっていて、その前は日本の中学校で数学科の講師をしていました。正規の教員になる前に色々な経験を積みたいという思いがあって、海外にチャンレジしてみようかなと思いました。

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――今回の受講にあたって、プログラミングの経験などはありましたか。
 
大学時代に授業で少しプログラミングを勉強していたのと、Androidアプリの勉強を独学でやっていたぐらいです。大学は理工学部の数学科だったのですが、授業の一貫としてプログラミングがあったので1年半ぐらい授業を受けました。ただ、授業の質も低くてとりあえず文法だけ書けるようになったくらいで、その段階では何か作品を作ることはなかったですね。
 
――授業では何の言語を学んでいたんですか。

C言語だったと思います。先生から課題が与えられて目標物を作るという流れでした。社会人になってからもプログラミングには興味があったんですが、本を読んで勉強したぐらいで何か作ろうという強い気持ちはなかった状態です。

具体物操作による数の概念の習得

――そういった中で今回テックアカデミーを受講されたきっかけは何でしたか。
 
作りたいものが仕事の中で出てきたことが大きなきっかけですね。ジャマイカの小学校1〜2年生の算数を見たときに出来が悪くて、どうしたらいいかなと色々考えていました。具体物操作といって、ブロックを動かしたり実際にあるものを動かして数えるのですが、それをやる物もないし、教員もその指導のやり方を分かっていないので実際にものを触れるようなアプリがあれば良いなと思い、作りたい気持ちが強くなりました。

――ジャマイカの子どもたちはみんなスマホを持っているんですか。

中国の格安スマホなどを持っています。結構普及していて、みんな学校に持ってくるぐらいなんです。ブロックの教材を買ったりするとすごく高いんですが、アプリだったらインストールしてしまえば無料で使えるので途上国でも合っているんじゃないかと思いました。

――ちなみに具体物操作が子どもたちにとってなぜ重要な要素なんですか。
 
数字の概念は子どもたちにとって、なぜ自分が分からないのかというのが説明できないんですね。子どもが数字をどう理解しているのかは深い部分で色々研究はされているんですが、やっぱり数字というものだけを与えても子どもはそれを理解できないんです。その数字という抽象的なものと具体物を繋げて覚えさせていくというのが子どもの数の発達に必要になってくるんです。

子どもが遊びながら数字の基本を身につけるアプリ「FRUTA MATH」

 
――今回作成されたアプリについて紹介をお願いします。
 
アプリ名は「FRUTA MATH」です。これは自分の名前を使っているのですが、ジャマイカでは「FRUTA」というジュースがあって、それを受けて命名しました。内容としては小学校に入るまでの子どもたちが数字の基礎を遊びながら理解できるゲームです。子どもの興味を引くようにキャラクターのアニメーションを入れたり、UIの動きを派手にして興味を失わないような設計にしています。

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――ジャマイカではそういった学習アプリはあまりないんですか。
 
ないですね。計算がひたすら出てきて、それに数字を答えるアプリはあるんですが、ジャマイカの子どもたちに必要なのはその手前で、具体物操作という要素がとても大事になってくるなと思っているんです。家庭内での教育に関する下地がない状態で小学校に入るので、そういうところを助けられたらなと思いました。
 
――開発期間はどれぐらいでしたか。
 
正直今も完成はしていないんですが、リリースまでは2ヶ月ぐらいでした。受講前から全体の構想は決まっていて、カリキュラムをすべて終えてから今回のアプリ開発に着手した形です。
 
――開発する中で難しかったところはありますか。
 
問題ごとに難易度が変わるようになっているのですが、そのクイズを選択する設計が難しかったです。ゲーム自体の構成は難しくなかったんですが、クイズの情報をどのクラスが持っているかなど、エンジニアとして働いたことがなかったので、どう設計したらいいか考えるのに苦労しました。
作りながらどの問題を出そうか、レベルをどう記憶させようかなどを考えていたので、開発する過程で辻褄が合わなくなることもあり、きちんと動作するアプリを作るのは難しいなと感じましたね。

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――子どもが使うことを想定した上で、こだわった点があれば教えてください。
 
キャタクターをAnima2Dという絵に骨を入れてなめらかに動かす機能を使って作りました。最初はパラパラ漫画のようにアニメーションしていたのですが、それだと生きている感じがしなかったんです。Anima2Dでキャラクターが生きているような形にしてから子どももより気持ちが乗るアプリになったんじゃないかと思います。
あとは、正解したときに色々なアニメーションを入れて嬉しい気持ちを引き出したり、サウンドもポコッとした音を出すなど細かいですが、全体として見ると印象が違ったので気を使った点になります。

家庭内での数字に対する教育のベースアップを目指したい

 
――今後加えたい機能や、アップデートしたい部分はありますか。
 
現在のアプリでは、数字は5までしか扱っていないので、まずは10まで増やしたいですね。他にも繰り上がりや繰り下がりの概念が重要で、多くの発展途上国で色々な先生が問題を抱えている部分なんです。それをゲーム感覚で学べるものが作れたらかなり画期的になるだろうなと思います。対象がかなり小さい子たちで、まだ文字も読めないことも多いので、問題を読み上げてくれる機能なども欲しいです。
 
――作られたアプリの今後の目標などはありますか。
 
ジャマイカでは、家庭で数字の教育が全くされていないという課題があるので、どの家庭にもこのゲームが入っていれば下地もかなり変わってくるんじゃないかと思います。目標としてはジャマイカの親御さんのスマホの中にFRUTA MATHが入っているというのが理想ですね。
 
――最後にこれからアプリを作ってみたい、プログラミングの学習をしてみたいという方に向けてアドバイスをお願いします。

大学でプログラミングを学んだときは自分の中で作りたいものがなかったのでつまらなく感じていましたが、この算数アプリを作りたいと思ったらそれにできることを逆算して考えるようになりました。加えてどんなサービスがあったらいいかなとか、どんなゲームがあったらいいかなとも日常の中で考えるようになったので、そういう視点を持つとさらにプログラミングのやる気も出るんじゃないかなと思います。

(インタビュアー:小嶋大貴)