人的資本経営とは?経営戦略と連動した人材戦略で企業価値を最大化
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。人的資本経営という考え方について、概要から実践のポイントまでを解説します。
デジタル化や脱炭素化、新型コロナウイルスの影響による構造転換の中で、人的資本の重要性が増しており、企業の持続的成長と競争力強化には、「人材」が欠かせないといえます。しかし、単に優秀な人材を集めるだけでは、真の企業価値向上にはつながりません。経営戦略と連動した戦略的な人材マネジメントこそが、今の時代に求められているのです。
そこで注目されているのが「人的資本経営」という考え方です。人材を「資本」と捉え、経営戦略の実現に向けて最大限に活用していくことが狙いです。
では、人的資本経営を実践するには何が必要なのでしょうか?どのようにすれば人材の力を引き出し、企業価値向上につなげられるのでしょうか?この記事では、人的資本経営の概要から実践のポイントまでを解説します。
目次
人的資本経営の概要と重要性
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。この手法は、経営戦略と人材戦略を連動させ、従業員の能力を最大限に生かすことを目指しています。その背景には、ESG投資の影響やDX推進の需要、そして企業価値向上への大きなインパクトがあります。
ここでは、人的資本経営の概要と重要性について詳しく紹介します。
人的資本経営の定義と目的
人的資本経営は、人材を企業の重要な資本と捉え、人材の能力を引き出すことで、会社全体の成長を目指す方法です。つまり、「ヒトこそが最大の資産」という考えのもと、経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行し、従業員一人ひとりの能力を最大限に生かすことが目的となります。
「人的資本経営」を実現するためのフレームワークは、以下の3つの視点と5つの共通要素で構成されます。
3つの視点
1.経営戦略と人材戦略の連動:経営目標に合わせて人材戦略を策定。
2.As is – To beギャップの定量把握:現状と理想状態のギャップを定量的に把握する。
3.企業文化への定着:企業文化に人的資本の考え方を浸透させる。
5つの共通要素
1.動的な人材ポートフォリオ:人材の適材適所配置を柔軟に行う。
2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョン:多様な知識と経験を持つ人材の活用。
3.リスキル・学び直し:従業員のスキルアップを促進。
4.従業員エンゲージメント:従業員の意欲と関与を高める。
5.時間や場所にとらわれない働き方:柔軟な勤務形態を提供する。
人材の多様性を尊重し、リスキリングや学び直しの機会を提供することで、一人ひとりが力を発揮できる強い組織づくりを目指します。人的資本経営の実践には、トップのコミットメントと、それを支える企業文化の醸成が不可欠です。
人的資本経営が注目される背景
人的資本経営が注目される背景には、いくつかの要因があります。まず、ESG投資が広まる中で、企業の非財務情報、特に人的資本への関心が高まっているという点です。人的資本経営は、ESGのS(社会的側面)に該当します。
また、人材の多様化や働き方の変化に伴い、従来の画一的な人事管理では対応が難しくなってきたことも影響しています。こうした背景から、人的資本経営への注目度が高まっているのです。
人的資本経営の企業価値向上へのインパクト
人的資本経営が企業価値向上に与えるインパクトは、非常に大きいでしょう。従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体の生産性を高めることは、業績アップに直結するからです。
人的資本経営は、優秀な人材の獲得・定着にも効果的です。「この会社なら、自分の能力を存分に発揮できる」と感じる企業文化は、高い従業員満足度につながります。
加えて、人的資本経営に積極的な企業は、投資家からの評価も高まる傾向にあります。人材への投資が、長期的な企業価値向上に寄与すると認識されているためです。人的資本経営は、まさに企業の成長エンジンといえるでしょう。
人的資本経営を実践する際に重要な考え方
経営戦略と連動した人材戦略の策定は、人的資本経営の要です。企業が自社のビジョンや計画に基づき、必要な人材像を明確化し、組織全体の生産性を高めるための具体的な施策を立案することで、経営目標の実現を支援します。
経営戦略と連動した人材戦略の策定
経営戦略と連動した人材戦略の策定は、人的資本経営を成功させるために不可欠です。
例えば、以下のステップがあります。
1.会社のビジョンや長期計画に基づき、必要な人材を明確にする
2.現在の従業員と目標との差を見つけ、その差を埋めるための施策を立てる
3.多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、多様性を促進する
4.テクノロジーの進化に合わせて、従業員のスキル向上を支援する
これらの戦略的な人材マネジメントによって、会社の成長を加速させることができるのです。
目標と現状のギャップ分析
目標と現状のギャップ分析は、人的資本経営の重要なステップです。「理想の人材像は見えているが、今の社員のスキルではまだ足りないかもしれない」と感じたら、まずは現状を把握することから始めましょう。
社員一人ひとりのスキルや経験、パフォーマンスデータを可視化し、目標とのギャップを明らかにします。例えば、DX推進に必要なAIやビッグデータのスキルが不足していれば、それを補うための育成プログラムを検討したり、即戦力となる人材を中途採用で獲得したりといった具体的なアクションにつなげられます。
このように、目標と現状のギャップを定量的に把握し、PDCAサイクルを回していくことが、人的資本経営の実践には欠かせないのです。
ダイバーシティ&インクルージョンの推進
ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、人的資本経営の重要な視点です。多様な背景を持つ人材が集まることで、イノベーションが生まれやすくなります。例えば、女性管理職の登用を進めたり、外国人社員の活躍を支援したりすることで、多様な価値観や発想を取り入れられます。
また、シニア人材の活用や障がい者雇用にも積極的に取り組むことが大切です。誰もが活躍できるインクルーシブな職場環境を整備することで、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。人的資本経営では、こうしたダイバーシティ&インクルージョンの推進により、持続的な企業価値向上を目指すのです。
リスキリングと従業員の学び直し支援
リスキリングと従業員の学び直し支援は、人的資本経営を進める上で重視することが推奨される取り組みです。「AIやIoTの普及で、自分のスキルが時代遅れになってしまうかもしれない」と不安を感じる従業員もいるでしょう。そんなとき、会社が従業員の学び直しを後押しすることは、モチベーションアップにつながります。
eラーニングやオンライン学習プラットフォームを活用すれば、場所や時間に捉われず、自分のペースで学べるのもメリットです。従業員の主体的な学びを促進し、新しいスキルを身につけてもらうことで、DX時代を乗り越える強い組織づくりができるでしょう。
人的資本経営の導入と定着のポイント
ここでは、人的資本経営の導入と定着のポイントを見ていきましょう。中小企業における取り組み方も紹介します。
トップのコミットメントと企業文化の醸成
人的資本経営を成功させるには、経営者自らが人材を最重要資産と位置づけ、その育成と活用に本気で取り組む姿勢を示すことが大切です。
人的資本経営を会社全体に行き渡らせるためには、できる限り経営理念やビジョンに人材を重視する考え方を取り入れ、日々の行動や意思決定に反映させる必要があります。経営トップが率先して、従業員の育成に注力する企業文化を作り上げることで、従業員のエンゲージメントも高まるでしょう。人材を大切にする文化が根付いた組織は、イノベーションを生み出し、持続的な成長を実現できるはずです。
人材データの活用と効果測定
人材データの活用と効果測定も重要なポイントです。人材に関するさまざまなデータを収集・分析し、戦略的な意思決定に生かすことが求められます。例えば、エンゲージメント調査や能力評価のデータを分析することで、組織の強みと弱みを把握し、改善策を講じることができるでしょう。
また、人的資本経営の取り組みによる効果を定量的に測定し、PDCAサイクルを回していくことも大切です。投資対効果(ROI)を算出し、投資家に対して説明責任を果たすことで、人材投資の重要性への理解も深まるはずです。データドリブンな人材マネジメントを実現することで、人的資本経営の真価を発揮できるでしょう。
テクノロジーの活用によるHR業務の効率化
テクノロジーの活用によるHR業務の効率化も、人的資本経営の重要な要素です。例えば、採用管理システムやタレントマネジメントシステムを導入することで、煩雑な事務作業を自動化し、人事担当者が戦略的な活動に注力できるようになります。
また、AIを活用した適性検査や面接評価、ビッグデータ分析による人材配置の最適化など、最新のテクノロジーを駆使することで、より精度の高い人材マネジメントが可能となるでしょう。
テクノロジーの力を借りることで、人事部門は「管理」から「戦略」へとシフトし、経営戦略の実現に貢献できるはずです。ただし、テクノロジーの活用はあくまでも手段であり、目的ではありません。人材育成や組織開発といった本質的な取り組みが疎かにならないようにしましょう。
中小企業における人的資本経営の取り組み方
中小企業における人的資本経営の取り組みには、大企業とは異なるアプローチが求められます。限られた人材と資源の中で、いかに効果的に人材を活用し、企業価値を高めていくかが鍵となるでしょう。
まずは、経営者自らが人材の重要性を認識し、人材育成に注力する姿勢を示すことが大切です。社員一人ひとりと向き合い、個々の強みを引き出すことで、小規模ならではの強みを発揮できるはずです。
人材データの活用も有効です。エンゲージメント調査や面談などを通じて、社員の意欲や能力を可視化し、適材適所の配置や育成につなげましょう。ITツールを活用することで、少ない工数で効率的なデータ管理が可能となります。
中小企業こそ、人的資本経営の考え方を取り入れ、一人ひとりの力を最大限に引き出すことが、持続的な成長への鍵となるのです。
人的資本経営の成功事例と期待されるメリット
人的資本経営を導入している大手企業の実践例と、期待できるメリットを紹介します。人的資本経営は企業の長期的な成長を支える重要な要素であり、企業ブランディングや投資家からの評価向上にも貢献しています。
大手企業における人的資本経営の実践例
人的資本経営の実践例として、リコーでは、リスキリングプログラムを通じて、従業員のスキルシフトを支援しています。社内公募制度や副業制度も活用し、従業員のキャリア自律を促進しています。新任のマネージャーにはマネジメント・リーダーシップ研修を行っています。
これらの取り組みの結果、2022年度には、360度フィードバックで部下へのエンパワーメントが1%、変革力が0.5%向上し、エンゲージメント調査では「完全にエンゲージしている」と回答する率が前年比で3ポイント上昇しました。スキル向上が、社員の満足度向上に結びついています。
生産性向上とエンゲージメント向上の好循環
人的資本経営を実践することで、生産性と従業員のエンゲージメントがともに高まる好循環が生まれます。従業員は自らスキルアップに取り組み、新しいアイデアや価値を生み出す文化が育まれます。その結果、イノベーションが進み、会社の業績向上につながります。さらに、従業員エンゲージメントの高まりは、顧客満足度の向上にも好影響を与えます。
人的資本経営に取り組む企業は、長期的な視点で人材投資を行い、持続的な成長を実現しているのです。
企業ブランディングと投資家からの評価向上
企業ブランディングと投資家からの評価向上は、人的資本経営の大きなメリットの一つです。優秀な人材が集まり、活躍する企業は、市場からの信頼や評価も高まります。投資家にとっても、人的資本に積極的に投資する企業は、長期的な成長力があると判断できるでしょう。実際、ESG投資の観点からも、人的資本経営への取り組みは重視されています。
自社の魅力を高め、投資家からの評価を上げるためにも、人的資本経営は欠かせない戦略です。
まとめ
企業の持続的成長には、人材を重要な資本と捉え、その能力を最大限に引き出す人的資本経営の実践が不可欠です。経営戦略と連動した人材戦略を策定し、トップのリーダーシップのもと、企業文化として定着させることがポイントです。
人的資本経営を実践して社員のスキルアップを後押しする姿勢が、エンゲージメント率の向上につながる好例も見られています。人的資本経営は、これからの時代に欠かせない経営手法といえるでしょう。
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