MASTER OF ENGINEER

誰から、何を、学ぶべきなのか。

指一本で世の中を変えられる、
未来を創れる

ヤフー株式会社
取締役 常務執行役員 CTO

藤門 千明

はてな

「誰から、何を、学ぶべきなのか。」を業界トップの現役エンジニアから聞く「MASTER OF ENGINEER」。
今回は、ヤフーでCTOを務める藤門千明氏へのインタビューです。

※記載の内容はインタビュー当時のものになります

「任せてよ」と言えるのがエンジニアの一番の価値であり喜び

「任せてよ」と言えるのがエンジニアの一番の価値であり喜び

ー CTOとしての役割を教えてください。

藤門:Yahoo! JAPANのサービス全体の統括はもちろん、エンジニアリング組織のトップとして組織改善やイベントも含めて多岐に渡って担当しています。

ー エンジニアとして昔から大切にしているものは?

藤門:ヤフーに新卒で入社した際の最初の上司との出会いが一番僕にとって重要でしたね。上司に「どういうエンジニアになったら成長できるのか」と質問したところ、「エンジニアっていう職業は作れないものを形にすることができる、未来を創ることができる職業だよ」と。つまり、人がエンジニアである自分に相談をしてきた際に、「自分ならできるよ、任せてよ」と言えることがエンジニアの一番の価値であって喜びであると教わったんですね。

なので、大切にしていることは、事業担当やプランナー、ディレクターから相談された際に、仮に難しいことやちょっと無理なんじゃないかなと思うことがあっても、まずは「わかった、やってみるよ」と言うこと。それが自分にとって一番重要な価値観です。

ー 特に解決したい課題は?

藤門:日本は災害がとても多い国ですよね。災害が起きる度にヤフーではいろんなサービス開発を介して、例えば台風の情報や交通情報を即座に皆さんにお伝えしたりしています。そもそも災害がなければこういう作業をしなくて済みますが、災害はなくなりません。

災害がなくならないなら、いかに早くその災害に我々が気づいてたくさんの命を守れるか、安全を守れるかというのが重要になるので、そこにフォーカスして課題解決したいなと最近は強く思っています。

ー 仮に別の職種からエンジニアを目指すなら何からしますか?

藤門:私は中学卒業後、普通高校に行かずに工業高専へ行きました。そこでコンピュータの基礎を学んだんですけど、当時1996年でインターネットに何でもある時代ではなく、教えてくれる人もほとんどいなかったんですね。なので、基本的に全部独学でプログラミングを学んでいました。それこそ日本語の本もあまり売っていなかったので、英語の本を図書館で借りて一生懸命英語を勉強して読んだり、海外から本を輸入して勉強したりしていました。

独学で学ぶことに慣れてしまっているんですが、本質的なことを学んだり、より深くまで追求して学ぶ際に体系立って学べないこともたくさんありますね。そういった部分は現在の充実した環境で学ぶと思います。

ただ、最後の最後は、深いとこまで学ぶのは今も変わらず独学なんじゃないかなと思います。とはいえ、やはり独学は大変なんですよね。誰も応援してくれないし伴走してくれないので。そういう点では、今の体系立って学べる環境が充実しているのは良いですね。

ー 例えばスクールはどうでしょう?

藤門:私はプログラミングスクールに通ったことがないので、実際どういうものなのか正直分からないです。ただ、体系立って基礎から学んだり、隣にいつも伴走してくれて自分の得意・不得意なところを教えてもらいながら学習を進めたりできるのは人によってはかなりマッチするのではないでしょうか。

素直なエンジニアが一番伸び、認められている

素直なエンジニアが一番伸び、認められている

ー エンジニアを目指す理由はどんなものが多いでしょうか?

藤門:最近は、いわゆるハッカソンなどのモノづくりをするイベントに参加後、たくさんの人と一緒に何か物を作ったらものすごく楽しかったから、その後大学や専門学校で勉強してきた、という人たちがヤフーの中では結構多いですね。

そういう面でいうと、正統派な勉強をしてこなくても、何か作ってみて面白かったからあの感動をもう1回味わいたいって人達は結構いるなと。楽しいからエンジニアを選んだ人がいるのは個人的に嬉しいですし、そういう人が増えているのはすごくいいなと思います。

ー 稼ぎたいからエンジニアになるという人もいるのでしょうか?

藤門:もちろんいます。エンジニアはプロセスを通じて社会に貢献した対価として適切な価値をいただく。だからエンジニアになるという人も当然日本にもいるし、ヤフーにもいるしグローバルにもいるので、それ自体は決して悪いことではないですよね。

エンジニアが物を作るプロセスで誰からも搾取されずに自分の信念を持って価値を出したからその対価をくださいというのはむしろ良いことだと思います。

ー 認められる、稼げるエンジニアについて詳しく聞かせてください。

藤門:最終的に稼げるのであって、まずはエンジニアとして周囲に認められることがおそらく一番重要だと考えています。さまざまなパターンがありますが、共通しているのは素直なエンジニアが一番伸びているし、認められているということです。

エンジニアリングという活動は、決して1人ではできなくて、チームでその役割を担います。ソースコードを書くのは個人ワークですが、コードを通じたサービスそのものは全員で作っていくものです。となると、当然みんなで指摘しあってレビューをするのがエンジニアの文化なんです。

時には厳しいワードで、「ここのコードはこうやって書くべきじゃない」とか、「このアーキテクチャよくない」などと、ある意味ダメ出しをすることがたくさんあります。その時に良いエンジニアとか認められるエンジニアの場合は、「確かにそうだよね、ここは直すべきだよね」と素直に受け止められます。むしろ、「こう直すとしたらここも直した方がいいんじゃないかと僕は思う」と一歩踏み込んだ提案ができる。

そういう素直なエンジニアがチーム・組織の中で認められることが多くて、最終的にそういう人が伸びていき、いいパフォーマンスが出ている人が多いかなと思います。

たくさん失敗できる環境に早く身を置くのが近道

たくさん失敗できる環境に早く身を置くのが近道

ー 認められるエンジニアへ成長しやすい環境はありますか?

藤門:自分は独学でプログラミングを学んできていて、社会人になった時に少しは自信があったんですけど、いざヤフーに入ってみたら全然ポンコツだったんですよ。当時のチームメンバーがとにかく全員優秀で、それぞれの領域で全く太刀打ちできないぐらいのスキルや人間力があって、普通にやっていたらやばいなという危機感、良い意味の焦りを感じました。

ただそのおかげで先輩や同僚の技術力を盗んだり、参考にしたりして学びました。自分の成長スピードは周りの人たちの影響が大きいと思います。ですので、自分にスキルがまだないと思っても、まずは成長できる環境に飛び込んでたくさん真似をして経験する、そうしてたくさん失敗すればするほど伸びるんじゃないかなと。そういう環境に早く身を置くのが近道だと思います。

ー プロとアマの差は失敗の数でしょうか?

藤門:正直に言うと、失敗すると傷つくんですよね、人間なので。失敗したくないなと思うんですけど、どうしても失敗することはあります。その失敗をした時に何を思うかがプロとアマの差と思っています。

例えば、失敗したけど次に同じことを起こさないようにしようと、その対策をしっかり考え、さらに自分以外の人が同じミスをしないように、というところまで踏み込んで考えられる人がプロだと思います。

1の失敗が2のリターンになって返ってくるか、みたいなところは意識するといいんじゃないかなと。そうすると、失敗することは後で絶対リターンとして返ってくるからどんどん失敗しても問題ない、失敗も怖くないと思えます。

ー プロの中でも一流のエンジニアの特徴を教えてください。

藤門:例えばECサイトに、銀行振込に対応してほしいという依頼がきたときを想像してください。普通は、支払手段に銀行振込の機能を1つ追加することを考えます。一方で、一流の人は、支払い手段は実は無限に増える可能性があるので、本質的な課題は、増やすための仕組みを先に考えることだと気づきます。

そういう隠された本当のメッセージにどれぐらい早く気付けるかが一流のエンジニアの違いだと思っています。かっこいいエンジニアは、指示の本質的なところをいち早く見極めて、そのための実装を1番早くやる人達で、それがプロの要素かなと思います。

ー それはプロからしか学べないことなのでしょうか?

藤門:そうかもしれません。実際に課題解決する現場に立ってみて、初めて視野が広がるんじゃないかなと。初めはみんな何もわからないままこの業界に入ってきたわけなので、是非足を踏み入れてみていろんな課題解決に挑戦してほしい。そうやってプロになっていけばいいと思います。

文系・理系問わずチャレンジする価値があるのがエンジニア

文系・理系問わずチャレンジする価値があるのがエンジニア

ー プログラミングスキルを持っていることのメリットはありますか?

藤門:スキルを持っていることそのものには、実はあまり意味がないと思っています。スキルを持っていることは、“何かを成し遂げるために一通りのプロセスを踏んで学ぶ力がある”ということであり、それに意味があると考えます。

必要なスキルは時代に応じてすごい速さで変わっていくんですね。とくにコンピュータ業界はものすごい速さで変わっていく。今あるスキルが来年には使いものにならない可能性もあります。ですので、時代や職種が変化しても、一から学び直せてアンラーニングできる、新しいことを学んで次のステージに行けることが、「スキルがある」ということだと考えます。

学び続けられる人が最後まで生き残れるんだと思います。そもそも学び続けないとすぐ陳腐化しちゃうのがエンジニアという職種です。一方で、学び続ければ世の中にどんな変化が起きても大丈夫というのが僕の中のエンジニア論です。エンジニアは人生を豊かに生き抜くための一つの生き方なんじゃないかなとは思っています。

ー コロナ禍で転職を考えていて、エンジニアに興味がある人には何をお伝えしますか?

藤門:エンジニアリングに対するハードルは、私が始めたときよりもはるかに下がっています。例えば、1つサービスやアプリを作る上でも、昔だったら全て学ぶ必要があったんですが、今はローコードやノーコードの時代になり、少しの知識だけで物作りができます。

そこまで時代は変わってきているので、物を作って誰かを喜ばせるハードルがものすごい速さで下がってきているなと感じます。なので年齢問わず、小学生でも40歳(私が40歳なので)を超えたシニアになっていく人も、文系・理系問わずチャレンジする価値があるのがエンジニアの領域なんじゃないかなと考えています。

実際、わたしの後輩で、文系でも技術的な責任者をやっている人間もいます。文系・理系ってほとんど意味がないものになりつつあるので、何を成し遂げたいか、何を作りたいかの情熱がどこまであるかが大事です。それ次第で伸び幅や得られるスキルが変わると思いますね。

指一本で世の中を変えられる、未来を創れる

指一本で世の中を変えられる、未来を創れる

ー エンジニアという職種の魅力はどんなところにあると思いますか?

藤門:物を作れる喜びって計り知れないものがあります。未来を創れるんです。ほかの職種にはないパワーを持っているのがエンジニアです。

よくヤフーの中では「未来を創る」と言います。自分がこうしたい、こうなったらいい、という気持ちをプログラミングの一行に込めることができるのがエンジニアである醍醐味なのかなと。

ー これからエンジニアを目指す人に望むことは何でしょうか?また、どんな人が向いているでしょうか?

藤門:指一本で世の中を変えられる仕事がエンジニアです。エンターキーを押すときの怖さが僕の中にあって、このエンターキーを押したときに上手くいけばいいし、上手くいかなかったら何か問題が起きるんですよね。

つまり何が言いたいのかというと、自分が今成し遂げようとしたことに対してどのような変化が起きるかを常に考えられる人がエンジニアに向いているのではないかと考えます。気楽にエンターキーをパンパンパンと叩く人は少し怖いなと思います。慎重に物事を進めるのが好きな人、真面目に物事を考えられる人がエンジニアに向いているのではないでしょうか。

今の時代はエンジニアへの間口が広がっているので、エンジニアがいろんな発想の中で課題を解決したり、いろんな人とコラボレーションする中で新しい価値を見出すことが容易に、普通になっています。可能性が無限大に広がっている中で、エンジニアは、よりスタイリッシュでこれからの日本を創る新しい職業になり得るんじゃないかなと、エンジニアとしては期待しています。

ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員 CTO

藤門 千明

筑波大学大学院を卒業後、2005年に新卒入社。エンジニアとしてYahoo! JAPAN IDやYahoo!ショッピング、ヤフオク!の決済システム構築などに携わる。決済金融部門のテクニカルディレクターやYahoo! JAPANを支えるプラットフォームの責任者を経て、2015年にCTOに就任。2019年10月より現職。