「誰から、何を、学ぶべきなのか。」を業界トップの現役エンジニアから聞く「MASTER OF ENGINEER」。
今回は、日本を代表するインターネット企業であるメルカリでCTOを務め、現在はグループ会社ソウゾウCTOとして活躍する名村卓氏へのインタビューです。
パソコン1台で作ったモノが、10億人の人生を変えられるかもしれない
ー CTOとしてどんな仕事をしていますか?
名村:CTOは最高技術責任者なので、会社の技術に関する責任を負っている人だと思っています。僕の場合、数百人のエンジニアがいる状態だったので直接技術に口を出すよりは、エンジニアが楽しく働けるか、そのエンジニアがどうやったらパフォーマンスを出せるかなど、エンジニアにとっての環境作りや、1人のエンジニアがどうしたら最大限成果を出せるかを考えて仕事をしています。
もちろん全体の技術の方向性などは話しますが、細かいところはそんなに首を突っ込まずに、それぞれの担当エンジニアを信用して任せています。
ー エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください。
名村:エンジニアになろうと思ったというよりは、結果的にエンジニアになっていた感じですね。
小学生の頃ゲームが好きで、自分でも作りたいと思って、どうしたら作れるかを調べていました。
するとプログラミングにたどり着いて、ゲームを作りたい一心でプログラムを学んで、いろいろモノを作るようになってました。コードを書いてモノが動くこと自体が楽しくて、これを仕事にしたいと思ったらエンジニアっていう職業がそこにありましたね。
ー 名村さんにとってエンジニアリングの面白さは何でしょうか?
名村:自分がパソコン1台で作ったモノが、もしかすると世の中の1,000万人とか1億人とか10億人とかの人生を変えられるかもしれない。彼らの人生をより良い方向に持っていけるようなポテンシャルがある。それが何よりもプログラムをやる上での醍醐味ですね。
自分の努力が数千倍とか数億倍になって世の中を良くする可能性がある。
誰でも家で始められるくらい入ってくハードルが低いのに、得られるメリットや生み出せる価値が果てしなく際限なく大きい。そしてそのチャンスが誰にでもあるのがすごく魅力的です。
社会人としてのエンジニアリングは先輩に教わった
ー 自身が影響を受けた人はいますか?
名村:大学の頃にアルバイトをしていた会社の先輩ですね。
社会人としてのエンジニアリングを教えてくれたんです。
今までずっと自己流でやってたことに対して、会社の中でプログラムを書いたり、考える思考を教えてもらいました。そのときを転機に「社会人としてもエンジニアをやっていけるな」って思うようになったので、一番影響を受けたかもしれません。
ー エンジニアとして大切にしていることはありますか?
名村:たくさんあるんですけど、1つ必ずあるのは、最終的に何のためにプログラムを書いているかを考えることです。
エンジニアってプログラミングとかコーディングをしていると、どんどん楽しくなっちゃって、プログラムとしてのあるべき姿とか、技術的な観点で正しいものや、それ自体の優先度を上げてしまうケースがあります。ただ、エンジニアはあくまで世の中に価値のあるモノを届けてナンボです。
エンジニアとしてこだわりたい部分が、どれくらい世の中に価値を与えられるものかを常に比較するのは大事です。何か仕事をやってく上でも、それが誰のためにどういう価値があるのか、誰のためになぜその課題を解決しなきゃいけないのかなど、そういう本質的なところを大切にしています。
困ったときに相談できる人がいるとだいぶ早い
ー プログラミングの効率的な学習方法を教えてください。
名村:困ったときに相談できる人がいるとだいぶ早いですね。
自分でやっているとはまっちゃうんですよね。何をやっても解決しないっていう状態がプログラミング始めると絶対出てくるんです。一方、分かっている人が見るとパパッと解決できるケースが多い。
個人的にはそのドツボにはまってなんとか自分でもがいて脱出する経験もすごく大事だと思いますが、とはいえ毎回それやっていると本当にプログラミングできるようになるまで何年かかるんだろうかと感じるので、聞ける人がいるのは時間的に近道になると思います。
ー プログラミングで挫折しないようにするにはどうしたら良いでしょうか。
名村:プログラミングは数学と一緒だと思うんです。公式ばかり覚えてもつまらない。公式をいろいろ組み合わせてやるとこんな問題が解決できるんですよっていう、ゴールの方が先にあった方がみんな頑張れると思います。
プログラミングをやるとなんとなく仕事ができるらしいよってスタートすると絶対ドツボにはまるので、プログラムを使ってこれを作りたい、そのためにプログラミングが必要なんだよねという流れで始めるのが楽しいと思います。
ー ゴールに向かっていく中で、スクールの有用性はどう思いますか?
名村:さまざまな情報を自分で調べて全部用意するのはすごく大変です。ある程度ゴールまでのレールが敷かれている状態でスタートするのは大事だと思っています。
こういうものを作るとこんなことができるんですよっていうスタートでスクールを利用するのは近道だと思いますね。
オープンなコミュニケーションが取れるかは重要な要素
ー 採用時、採用する人、採用しない人はどこで見極めていますか?
名村:会社で働くエンジニアは、ひとりでモノを黙々と作るとは違って、チームで開発できるとか、その会社の一員として会社の人たちとうまくやっていけるかが大事です。
ちゃんとコミュニケーションをとりながら物事を考えられるかということですね。
例えば、ある問題を相談したときに、ずっと思い悩んで、「分かりません」ってよりは、考え方をオープンにしながら、「ここはこうだからこうだと思う、こういう風になった方が良い」など解決に向けて、ちゃんとオープンなコミュニケーションがとれるかどうか。これがチームで開発するエンジニアとしては重要な要素だと思います。
ー 名村さんがエンジニアとしてキャリアアップできた理由はなんだと思いますか?
名村:もし1つあるとするなら、僕は「世の中の役に立ちたい」という気持ちと、「人を驚かせたい」という気持ちがあります。
「何かこういうモノを作りたいんだよね」って言われたときに、「これくらいでいいんだよね」みたいな考え方はすごく嫌いなんですね。「こんなのできちゃうの?」と言われるくらい質の高いものを出していくのがすごく好きです。人の期待を越えていくみたいな。
なので、今までで作ったサービスでも、できるだけ世の中にないような要素を入れるとか、とてつもなく快適なものを作るとか、他の人が思いつかないような上手い仕組みで作り上げたい気持ちがありました。
そういう気持ちや軸でサービスを作ってきて、たまたまそれが世の中に評価されて最終的に今のような評価を頂いているのかなと思っています。
ー 小学生の段階でプログラミングを学ぶことについてどう思いますか?
名村:例えば算数嫌いのように、プログラム嫌いを出さないようにしてほしいと思っています。
先生はすごく大事ですね。
ノウハウばっかりやるとすごくつまらないんですよね。プログラミングはすごく楽しいものだとちゃんと教えてくれるような場所が重要かなと思いますね。
ー これからエンジニアになりたい人へのエールをお願いします。
名村:僕はプログラミングを仕事に選んでよかったなってすごく思っています。
繰り返しになりますが、プログラミングってすごく面白くて、自分が作った物が世界中の人に影響を与えるポテンシャルを持っているんです。ちょっとした工夫と、ちょっとしたアイデアをすぐに実現できる。そういう素材なんですね。
何か「こうこういうことできたらいいな」と思ったときに、プログラミングができるだけで道のりがすごく近くなるし、それがその世の中に実際求められている。あと、プログラミングできること自体が人生において損になるとは思わないので、まずは始めてみて、身近にあるようなものとか、身近の誰かの問題を解決したみたりすると楽しいと思います。
例えば、最初は家族が必要としているものを自分で作って解決して感謝されると、すごく楽しくなりますよ。そうやってスタートすると、次はもっと良いものを作りたいとか、もっとよくしたい気持ちが強くなって、さらにプログラミングを深く理解しようという気持ちになります。
そうやってプログラミングをスタートする人が増えると、世の中をより良くする人が増えるので、どんどん勉強する人が増えていって欲しいなと思います。
損はないのでぜひスタートして、プログラミングを楽しんで欲しいなと思います。
株式会社メルカリ 執行役員CTO、株式会社ソウゾウ 取締役CTO
名村 卓
受託開発経験を経て、2004年、株式会社サイバーエージェント入社。『アメーバピグ』『AWA』『AbemaTV』などの開発を担当。2016年、メルカリ入社。US版メルカリの開発に従事。2017年、執行役員CTOに就任。2021年、株式会社ソウゾウの取締役CTOに就任。メルカリグループの新規事業の創造に従事。