デジタル人材育成のポイント:求められるスキルや課題、育成事例を紹介
DX推進に欠かせないデジタル人材は不足しており、人員確保のためには採用だけでなく自社での育成も視野に入れる必要があります。デジタル人材に求められるスキルや育成における課題、他社の事例を紹介します。
デジタル化が急速に進む現代社会において、企業がデジタル人材を確保することは喫緊の課題となっています。
人材確保の手段には、新規採用と社内での育成がありますが、デジタル人材の不足は深刻化しており、どちらも多くの企業が苦慮しているのが現状です。
デジタル人材とは一体どのような能力を持った人材なのでしょうか。また、企業の担当者はどのようなステップを踏んで、デジタル人材を育成していけばよいのでしょうか。デジタル人材育成に向けて押さえておきたいポイントや、他社事例を紹介します。
目次
デジタル人材とは
育成を始めるにあたり、まずはデジタル人材の特徴や、人材不足の背景を理解することが重要です。ここでは、デジタル人材に必要なスキル、深刻化する人材不足の現状、そして社内での育成の必要性とメリットについて解説します。
デジタル人材に求められるスキル
デジタル人材に求められるスキルは、多岐にわたります。もちろん、データサイエンス、プログラミング、UX/UIデザイン、アジャイル開発などの専門的な知識は必要不可欠です。
加えて、論理的思考力、問題解決力、コミュニケーション能力といったビジネスにおける汎用的なスキルも重要視されています。
さらに、変化への適応力、好奇心、自発性など、マインドセットも大切な要素です。デジタル化の波はとどまるところを知りません。常に新しい技術やトレンドをキャッチアップし、学び続ける姿勢が求められるのです。
デジタル人材不足の現状と背景
デジタル人材不足は深刻な問題です。経済産業省の調査では、2030年には約79万人のデジタル人材が不足すると予測されています。この背景には、DXの加速や新技術の登場があります。
企業がデジタル化を推進するには、適切な人材の確保が不可欠です。しかし採用競争は激しく、自社での育成も、教育体制の整備や実務経験の不足などの課題があり、容易ではありません。
社内でのリスキリング、デジタルリテラシー向上のための資格取得支援など、育成に向けた積極的な取り組みが、デジタル時代を勝ち抜く鍵となるでしょう。
デジタル人材育成の必要性とメリット
デジタル人材育成は、企業にとって大きなメリットがあります。DXを推進し、競争力を強化するだけでなく、イノベーションの創出にもつながります。
また社員のデジタルリテラシーを向上させることで、業務の効率化や生産性の向上が期待できるでしょう。デジタルスキルを身につけることは、個人のキャリアアップにも有効です。
デジタル人材を育成することは、企業の成長戦略の一環として捉えるべきでしょう。投資対効果を考慮しつつ、計画的に取り組むことが重要です。
デジタル人材育成の課題と対策
デジタル人材の育成を進める上で、いくつかの課題に直面することがあります。ここでは、3つの観点から、デジタル人材育成における課題と対策を解説します。これらの課題に適切に対処し、体系的な育成プログラムを構築することが、企業におけるデジタル人材の育成には欠かせません。
社内教育体制の整備
デジタル人材育成において、教育体制の整備は大きな課題です。先述の通り、デジタル人材は需要に対して供給が追い付いていない現状があり、社内で育成できる体制を早めに整備し、運用することが、安定的な人材確保につながると言えます。
またデジタル人材にはさまざまなスキルが求められるため、育成に多くの時間や予算がかかることが予想され、経営層の理解と支援が欠かせません。
経営層に働きかけて人材育成を経営戦略の一環として位置づけてもらい、長期的な視点で講師の確保やカリキュラム開発といった、育成プランの構築に取り組むことが求められます。
実務経験の重要性と OJT の活用
座学で得た知識を、いかに実務に生かしてもらうのかも、デジタル人材育成における課題の一つです。実務経験を積み重ねることで、スキルが定着し、応用力が養われるでしょう。
そのためには、OJT(On-the-Job Training)を効果的に活用することが重要です。先輩社員との協働プロジェクトに参加させたり、実際の業務を担当させたりすることで、実践的なスキルを習得させることができます。
ただし、OJTを実施する際は、適切な目標設定とフィードバックが必要不可欠です。スキルレベルに合わせた課題を与え、定期的に進捗状況を確認し、改善点をアドバイスすることが求められます。
デジタルリテラシー向上のための資格取得支援
デジタル人材育成をスムーズに進めるにあたっての課題として、社員のデジタルリテラシー向上が挙げられます。デジタルリテラシーが低い状態では、初歩レベルから育成しなければならず、育成に時間がかかるでしょう。
デジタルリテラシー向上には、資格の取得を支援する方法が有効です。ITパスポート試験やディープラーニング検定など、デジタル分野の資格は数多く存在します。
これらの資格取得を支援することで、社員のスキルアップを図れます。勤務時間中に学習機会を提供したり、受験料を補助したりするなど、さまざまな支援方法を用意するとよいでしょう。
資格取得は、社員のモチベーションアップにもつながります。自己啓発の成果が目に見える形で認められることで、さらなるスキル向上への意欲が高まるでしょう。
デジタル人材育成のための具体的なステップ
デジタル人材を育成するには、体系的で継続的なアプローチが欠かせません。ここでは、カリキュラムの設計から実施・評価を経て、継続的な学習機会を提供するまでの4つのステップについて解説します。
デジタル人材に必要なスキルの明確化とカリキュラム設計
デジタル人材育成の第一歩は、必要なスキルを明確にし、適切なカリキュラムを設計することです。例えば、ソフトウェア開発、データ分析、デザイン思考、プロジェクトマネジメントなど、さまざまなスキルが重要とされています。
また、全てのスキルを学ぶ必要がある人もいれば、そうでない人もいます。育成対象者のレベルに合わせてカスタマイズすることも、カリキュラム設計の上で大切です。
必要なスキルを効率よく身につけさせるために、人材育成に長く携わってきた社員や、外部の教育機関などと協力し、体系的な学習プログラムを作成しましょう。その際、座学だけでなく、実践的な演習や課題解決型の学習を取り入れることが効果的です。
研修プログラムの開発と実施
研修プログラムを開発・実施するには、まず目的を明確にし、それに合う内容を意識することが重要です。例えば、データ分析スキルの向上が目的なら、実際のデータを使った演習を多く取り入れるとよいでしょう。
業務で扱うデータや、業界ならではのデータをもとに学ぶことで、学習者にとっては身近に感じられ、実務に生かしやすくなります。また、適切な教材の選定や、講師の質にも気を配ります。
研修後は、学んだスキルを実務で生かせるよう、フォローアップやOJTを行うことを忘れてはいけません。継続的な学習の機会を提供し、自走できるように成長をサポートしていくことが、デジタル人材育成の鍵となるでしょう。
デジタル人材のキャリアパスと評価基準の設定
デジタル人材のキャリアパスと評価基準を設定することも、人材育成の重要なポイントです。例えば、スキルレベルに応じたグレード制度を導入し、昇格の条件を明示することで、モチベーションアップにつなげられます。
評価基準は、技術力だけでなく、問題解決力やコミュニケーション能力なども含めて多面的に設定するのがおすすめです。どのレベルをどのように評価するのかは、社内でのアンケートや面談を通したヒアリングなどで判断するとよいでしょう。
専門性を極めるスペシャリストコースと、マネジメントを目指すゼネラリストコースなど、キャリアパスの選択肢を用意するのも効果的です。キャリアパスを自ら選ぶことで、将来への見通しが持てるようになり、スキルの習得やレベルアップに向けて積極的に取り組むことが期待できます。
継続的な学習機会の提供と自己啓発の奨励
常に最新の知識やスキルを身につけられるよう、デジタル人材の育成には、継続的な学習機会の提供と自己啓発の奨励が欠かせません。福利厚生としての社内勉強会や外部セミナーへの参加支援、オンライン学習プラットフォームの活用などが効果的でしょう。
また、自主的な学びを奨励するために、資格取得支援や貢献度の高い社員への表彰制度の導入なども検討しましょう。最新の生成AIスキルなど、注目の分野をいち早く習得できる環境を整えることで、デジタル人材の自己啓発意欲を高められます。
会社としてもデジタル人材育成に積極的に取り組み、社員の成長をバックアップする姿勢を表明・維持していくことが求められています。
デジタル人材育成の事例
デジタル人材育成の具体的な事例として、対象者別の育成事例と失敗しないためのポイントを紹介します。ダイキン工業やキリンホールディングスなどの企業は、研修とOJTを組み合わせた新入社員育成や、社員のスキルレベルに合わせた段階的な研修を実施しています。一方、技術偏重や知識の詰め込みに偏った育成は失敗のもとです。デジタル人材育成のヒントとして活用しましょう。
新入社員対象の育成事例
新入社員のデジタル人材育成では、ダイキン工業株式会社の事例が参考になります。同社では、入社後すぐに手厚い研修を実施し、デジタルスキルの基礎を身につけさせています。
具体的には、プログラミング言語の習得や、データ分析の手法、デザイン思考のプロセスを学びます。さらに、研修で学んだ知識を実務に使えるよう、OJTにも力を入れているそうです。
このように、座学と実践を組み合わせた育成プログラムは、新入社員の成長を加速させるでしょう。
全社員に向けたレベル別デジタル人材育成事例
全社員向けのデジタル人材育成では、社員のスキルレベルに合わせた段階的な研修が効果的です。例えば、キリンホールディングスでは、デジタルスキルを3段階に分け、それぞれに適した研修を用意しています。
NECマネジメントパートナー株式会社なども、社員のレベルに合わせた研修を実施し、着実にデジタル人材を育成しています。
社員一人ひとりのスキルや目標に合わせ、成長の機会を提供することが、企業の未来を担うデジタル人材の育成には不可欠なのです。
デジタル人材育成に失敗しないために
デジタル人材育成に失敗する要因として、ITスキルの習得だけに偏重し、ビジネス視点を欠いたケースが挙げられます。
技術偏重の育成では、現場で求められる課題解決力が身につきません。また、知識の詰め込みに終始し、実践の機会を与えない育成も失敗のもとといえるでしょう。机上の学習だけでは、実務で通用する力は養えません。
デジタル人材を育てるには、技術とビジネスのバランス、そして実践の場が鍵を握ります。
まとめ
デジタル人材不足を補うために、自社での育成体制を整えることが、多くの企業の課題となっています。
ただしデジタル人材には幅広いスキルが求められるため、無闇に育成を進めても失敗する可能性が高いでしょう。
社員のスキルアップとDX推進を結びつけるには、必要なスキルの明確化、カリキュラム設計、効果的な研修プログラムの開発と実施が必要です。また、キャリアパスと評価基準の設定や、継続的な学習機会を提供することも求められます。他社の事例も参考に、段階的・継続的な育成体制を作ることが重要です。
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