人材育成の具体的な方法・研修とは?ポイントを押さえて効果のある研修を

働き方の多様化や労働者の高齢化といった課題の中で、人的資本経営への注目度が高まっています。企業価値の向上を目指すための人材育成の具体的な方法が知りたい方もいるでしょう。人材育成の目的や課題、成功のポイントと進め方やアプローチ方法を解説します。

現在の日本の人材市場は、働き方の多様化や高齢化が問題となっており、社内で人材を育成することへの関心はますます高まっています。自社の人的資本の価値を高めるためにも、人材育成の方法について理解を深めたい方もいるのではないでしょうか。

この記事では、人材育成の目的と重要性、そして具体的な方法について紹介します。人材育成は、組織の成長に欠かせない要素です。自社に最適な人材育成方法を検討し、自社で導入してみてください。

目次

 

人材育成の目的と重要性

オフィス内で若い男性の肩に手を置き微笑む中年男性と、拍手をしながら微笑む女性

人材育成とは企業の成長と発展に貢献できる人材を中長期的に育成するための活動です。組織の競争力を高め、持続可能な成長を実現できる環境を作り出すことは、企業にとっては業績アップやブランディングの効果に期待が持てます。

似た言葉に人材開発がありますが、こちらは人材を企業経営の資源として捉え、潜在能力を発揮できるように開発するという意味もあります。成長を促す「育成」と人的リソースを有効に活用をする「開発」との違いです。

また、人材育成を通じて、育成を担当する社員にも、マネジメント能力やディレクション能力を身につけてもらうことを目的としています。そうすることで、企業のビジョンや能力開発に関して、企業全体で取り組む風土が醸成されるでしょう。人材の将来的な価値を重視して投資することは、「人材から選ばれる企業」を目指すことにもつながり、貴重な人材の流出防止・採用効果にも期待できます。

 

人材育成で陥りがちな企業の課題

顎に手を添えて前を見つめる白髪の男性

厚生労働省が公表した「人材開発政策の現状と課題について」という資料によれば、アンケートに回答した企業の中で、「自社の人材育成に問題がある」と回答した企業は7割にものぼります。人材育成に悩む企業は、どのような課題を抱えているのでしょうか。ここでは、人材育成で陥りがちな企業の課題を4つに分けて見ていきましょう。

取り組み方がわからない

人材育成は、役職や経歴年数、業務内容によって差別化が必要です。例えば、入社3年目~4年目の中堅社員に行う研修と、新入社員の育成内容は分けて考えなければなりません。
またエンジニアやマーケターなどの専門職に関しては、そもそもどのように育成したら良いのか、分からないケースもあるでしょう。

このように多種多様な人材を育てるにあたって、社内に育成に関するノウハウがなく、場当たり的な教育になっている体制のため、育成の成果が見込めない企業も多いです。

環境が整っていない

計画的・継続的な人材育成計画を実施するための環境が整っていないケースも珍しくありません。人材育成は、関係部署や各担当者が人材育成の目的・目標を理解し、達成に向けて段階的に計画を進めていくことが求められます。

しかし、育成できる環境が整っていない企業は、育成担当者のリソースを確保せず、育成対象者に対して十分な監督ができないこともよくあります。育成が中途半端になってしまい、本来身につけて欲しいスキルが身につかず、いつまでたっても戦力になれないケースも発生し得るのです。

時間と費用がかかる

人材育成に着手したくても、時間やコストを捻出できない場合もあります。人材育成は、新人育成はもちろんのこと、中堅社員や管理職の人間など、さまざまなタイプの社員に対し行うことが望ましいです。そのためのリソースを確保する必要があり、育成する担当者はもちろん、育成対象者の時間や費用の確保を行わなければなりません。

人材育成に取り組もうと思っているものの、そうした時間や費用が捻出できずに育成がおろそかになってしまうケースもよくあります。

育成者の意識とスキルが不足している

育成担当者に人材育成を実施するための意識やスキルが不足している場合もあります。担当者の育成スキルが未熟な場合、計画に沿った目標管理ができません。コーチングの技術がなければ育成対象者の不満が募り、モチベーションの低下や離職につながることも考えられます。

育成担当者は人材戦略の重要性を理解した上で、教育を受ける社員の立場で考えることが重要です。人材育成計画を成功させるには、育成担当者の意識やテクニカルスキルだけでなく、悩みに寄り添った対応ができるヒューマンスキルも重要となります。

 

人材育成を成功させるための3つのポイント

会議用テーブルに並べた資料に注目し微笑む5人の男女

人材育成においての企業の課題をどのようにクリアしていけばよいのでしょうか。育成は何をするのかよりも、どのように進めるのかという準備がより重要になってきます。ここでは、人材育成計画を成功に導くための3つのポイントを見ていきましょう。

現状を分析して課題を明確にする

まず自社の現状を分析し、人材育成で解決すべき課題や達成すべき目標を決めます。ここで重要なのは、調査対象を幅広く取ることです。経営層や人事部だけでなく、各現場からも意見を募り、分析することです。

例えば、経営側が「DX化がなかなか進まない」ことを課題だと感じていたとして、現場からは「DX化を牽引できる指導者の不足や、DX化によって取引先との摩擦を懸念する声」があがるといったケースもよくあります。多角的にヒアリングを行うことで、本当の課題は何かが明確になるのです。

スキルマップを作成する

育成方法を検討する前に、育成対象社員のスキルマップを作成します。スキルマップとは、業務上必要となる保有スキルを、社員ごとに可視化するためのツールです。業務内容などでスキルセットをカテゴリ分けし、必要となるスキルを細分化して、各社員の保有スキルを数値化します。

人員・スキル構成の計画とスキルマップを照らし合わせることで「どの社員がどのようなスキルを獲得すべきか」が見えるようになり、不足スキルの把握と指導漏れも防ぐ効果もあります。スキルマップは人材育成のアプローチの検討に役立ちます。

費用対効果を考慮した育成方法を決める

どの社員がどのようなスキルを獲得すべきか明確化したら、費用対効果を考慮しつつ、具体的な育成方法を決めます。

基礎から応用・実践までの各段階の時間とコスト、また評価システムの構築などを行います。オンライン研修・オフライン研修の使い分けや、必要に応じてマンツーマンサポートを取り入れるなど、人材育成計画の投資効果を最大化する育成方法を検討しましょう。

 

人材育成の具体的な方法・研修11選

着座し笑顔で語り合う2人の女性

人材育成では、オフライン・オンラインの学習、メンタル面のサポートや目標管理など、さまざまな手法を組み合わせることが求められます。ここでは、人材育成の具体的な11の方法について、概要とメリット・デメリットを見ていきましょう。

OJT

OJTは職場の先輩や上司が実際の業務を通じて指導し、現場に必要な知識・スキルを習得させる教育方法です。

【OJTのメリット】

  • 実践的な知識・スキルを身につけられる
  • 座学で学んだ知識・スキルがどのように実務に生かせるかを実体験できる
  • 実際の業務を通した双方向コミュニケーションにより、育成担当者の成長にもつながる

【OJTのデメリット】

  • 育成担当者はコア業務の合間を縫ってOJTを実施するため、教育効果が不十分な場合もある
  • 育成担当者の意識・スキル・教育方法によっては実施効果にバラつきが出やすい

OFF-JT

OFF-JTは外部から講師を招いて講義やグループワークなど、いわゆる集合研修を指すことが一般的です。

【OFF-JTのメリット】

  • 自社リソースでは対応できない専門知識・スキルの教育ができる
  • 実務から離れた学習となるため、学びに集中できる
  • 大勢が均質な教育を受けられる

【OFF-JTのデメリット】

  • 学んだ内容を実践に生かせるとは限らない
  • 講師謝礼金や会場費など、研修コストがかさむ場合もある

eラーニング

eラーニングは「学習管理システム」と呼ばれるプラットフォームを用いて、PCやスマホによる講義動画の視聴や受講者のアカウント管理・学習進捗管理・達成度テストなどができる学びの手法です。

【eラーニングのメリット】

  • スキマ時間を活用して効率的・自律的に学習を進められる
  • 動画や音声コンテンツを、納得いくまで反復学習できる
  • 受講者の学習進捗やテスト結果などをリアルタイムで管理できる

【eラーニングのデメリット】

  • インターネットなどの環境整備が必要
  • モチベーション維持の仕組みがないと途中離脱する社員も出る

自己啓発

自己啓発は、本人の意思で能力向上や精神的成長を目指す学びです。企業が参考書購入・セミナー参加料・資格取得費などを支援する制度を整備し、自発的な学びを促します。

【自己啓発のメリット】

  • 支援制度を活用してキャリアアップを目指せる
  • 業務外で行われることが多く、実務への支障が出にくい

【自己啓発のデメリット】

  • 学びは個人主導になるため学習成果が自社の求める人材と合致しない場合もある
  • モチベーションや学習成果の管理が自己責任となり、成果が出にくい場合もある

メンター制度

メンター制度とは、実務で直接関わらない先輩社員などをメンター(指導者)とし、メンティ(被育成者)のサポートをする制度です。

【メンター制度のメリット】

  • さまざまな悩み相談もでき、離職やパフォーマンス低下を防止できる
  • 精神面サポートにより、長期的な学習のモチベーション維持に役立つ
  • メンター自身の振り返りやヒューマンスキル向上にも効果的

【メンター制度のデメリット】

  • メンターのヒューマンスキルが不足しているとメンティの成長につながりにくい
  • サポートの効果はメンターとメンティの相性に左右される

ジョブローテーション

ジョブローテーションとは、社員を定期的に異動・転勤させ、さまざまな職種・職場で経験を積ませる制度です。単なる人事異動とは異なる人材育成計画にのっとった人材育成方法です。

【ジョブローテーションのメリット】

  • 業務を幅広く体験することで、総合職人材や経営幹部の育成に役立つ
  • 人員の過不足に柔軟に対応できる
  • 部署をまたいだコミュニケーションや組織の活性化につながる

【ジョブローテーションのデメリット】

  • 社員の意向に沿わない異動の場合、モチベーションや生産性の低下を招く
  • スペシャリストの育成計画とは相性が悪い場合もある

目標管理制度

目標管理制度(MBO/Management by Objectives)とは、社員自身で目標達成までを管理し、業務効率やモチベーションの向上につなげる人材マネジメント手法です。

【目標管理制度のメリット】

  • 足りないものを自ら考え行動することで、主体性や自己管理能力を養える
  • 評価制度が客観的かつ透明性の高いものとなり、社員の納得感も得られやすくなる

【目標管理制度のデメリット】

  • 結果を意識し過ぎてモチベーションが低下する場合もある
  • 面談や目標管理が目的化し、業務効率を下げてしまう懸念がある

ティーチング

ティーチングとは、経験豊富な人材が育成対象者に対し、自身の知識やノウハウを伝達する指導方法です。先生と生徒のような関係性で、1対1または1対多の講義形式で、業務の進め方などをレクチャーします。

【ティーチングのメリット】

  • 一度に大勢に対して業務に必要な知識やノウハウを伝達できる
  • 人材育成の必要性や目標なども共有できる

【ティーチングのデメリット】

  • 指導者の知識や経験以上のものは伝達できない
  • 生徒役は受動的になりがちで、自立を促しにくい

コーチング

コーチングとは、対話の中で育成対象の社員が答えを導けるようにサポートし、目標達成を補助する指導方法です。基本的に1対1で行われ、質問や問いかけを繰り返しながら、育成対象者が向かうべき方向を導きます。

【コーチングのメリット】

  • 育成対象者の自立を促しやすい
  • ポテンシャルを引き出すと同時に問題解決能力を養える

【コーチングのデメリット】

  • 長期間をかけて指導しても、育成担当者のマネジメントスキルによっては効果が薄い場合もある
  • 複数人を相手にできないため、育成担当者を一定人数確保する必要がある

ストレッチアサインメント

ストレッチアサインメントとは、現時点の知識・スキルでは達成困難な仕事にあえて従事させ、社員のポテンシャル発揮や成長を促す人材育成手法です。実現不可能な課題を与えるのではなく、チャレンジできる環境や逆境を用意します。

【ストレッチアサインメントのメリット】

  • 仕事に対する当事者意識の向上が見込める
  • 困難な状況に対応するための知恵を絞ることで、実務能力を総合的に底上げできる

【ストレッチアサインメントのデメリット】

  • 割り振る業務の見極めが難しい
  • タスクを完遂できず、逆効果になる場合もある

1on1ミーティング

1on1ミーティングとは、上司と部下が目標進捗の確認や業務内外の報連相を目的に行われる定期的に行う対話です。

【1on1ミーティングのメリット】

  • 学習や評価についての悩みを吸い上げ、メンタル面のサポートや評価制度の見直しにつなげられる
  • 経過観察や意見収集により人材育成計画全体の軌道修正にもつながる

【1on1ミーティングのデメリット】

  • 上司が経営目標への理解や育成スキルがない場合、効果は薄い
  • 上司が多忙だと面談機会は少なく、成長計画が進めない

 

まとめ

オフィスの廊下でノートPCを抱えてカメラ目線で微笑む男女

人材育成は企業価値の持続的向上にとって非常に重要です。人材を投資対象として捉え、長期的スパンで必要な人員数や保有スキルを検討し、段階的に達成目標に近付けていくことが求められます。

社内リソースだけでは伝達できる知識・スキルやかけられる時間に限界があります。リソース不足なら、長期的かつきめ細やかな人材育成計画に対応できる、マンツーマンサポートや評価体制などに強みのある研修会社を利用するのがおすすめです。