【記載例あり】デジタル(DX)人材のスキルマップ導入のメリットと作成方法
企業がDXやデジタル事業を推進する際、デジタル技術に精通したデジタル人材(DX人材)が求められます。スキルマップは、DX人材の育成計画を円滑化するための必須ツールです。デジタル人材のスキルマップや導入するメリット、作成方法を紹介します。
企業がDXやデジタル事業を推進する際、デジタル技術に精通したデジタル人材(DX人材)が求められます。スキルマップは、DX人材の育成計画を円滑化するための必須ツールです。
DXにスキルマップがなぜ必要なのか、どのように作成・運用すべきかを理解したい方に向けてもいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、デジタル人材のスキルマップや導入するメリット、作成方法についてご紹介します。
目次
- デジタル(DX)人材とは?
- 【DX人材の職種別】必要なスキル
- スキルマップがDX人材の育成のカギ
- DX人材のスキルマップを作成するポイント
- 【例】データサイエンティスト(データエンジニア)のスキルマップ
- まとめ
デジタル(DX)人材とは?
デジタル人材はDXに不可欠な人材の総称で、DX人材とも呼ばれます。エンジニアの高齢化と人材確保の激化により、既存システムの運用が難しくなっている企業は珍しくありません。この状況を変えるために必要となるのが、デジタル人材です。まずはデジタル人材の定義や役割を見ていきましょう。
デジタル人材の定義と必要とされる背景
デジタル人材(DX人材)とは、企業のDX推進を担う人材の総称です。デジタル技術を活用した事業の企画・推進や実装を担い、「新たな価値を提供する人材」と定義されるため、ITを利活用する「IT人材」とは区別されます。
DXの必要性を感じている経営者は多いものの、レガシーシステム(既存システム)が複雑化・ブラックボックス化しており、データを利活用してDX実現につなげるのが難しいケースも多いです。
経済産業省は、国内企業がDXを実現できない場合、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性を指摘しています(2025年の崖)。この事態を回避するためにも、デジタル人材を確保・育成することが急務とされています。
デジタル人材の役割
DXにはデータサイエンスやエンジニアリングといった技術的なスキルだけでなく、ビジネス・サービス設計や組織・プロジェクト管理などのビジネススキルも必要です。デジタル事業の推進を担うデジタル人材には役割分担があります。主な役割は以下の通りです。
- DXによるビジネス課題解決を企画するディレクターやプランナー
- データ分析により施策を高度化するアナリストやサイエンティスト
- プロダクトを設計・実装するアーキテクトやエンジニア
企業によって職種名は異なりますが、これらの役割を複数の職種のデジタル人材が分担し、DXを推進していきます。
【DX人材の職種別】必要なスキル
DX人材の具体的な職種は、経済産業省と連携するIPA(情報処理推進機構)が規定しています。従来のプロジェクト単位の役割分担ではなく、プロダクト(商品・サービス)やデジタル事業に特化した役割分担となっていることが特徴です。ここでは、7種類のDX人材の特徴や必須スキルを見ていきましょう。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャー(PdM)とは、経営方針や企業戦略に基づいてプロダクト(製品・サービス)を策定し、デジタル事業の実現を主導するリーダー格の人材です。DX人材を統括し、プロダクトのライフサイクル全体の責任を負います。求められる主なスキルは以下の通りです。
- ビジネス戦略を策定するスキル
- プロダクトのポートフォリオマネジメント(経営資源の分配の最適化)を行うスキル
- プロダクトのバリュープロポジション(顧客価値)を定義するスキル
- プロダクトの機能や仕様をPRD(プロダクト要求仕様書)に落とし込める能力
- 適切なKPIを設定し効果測定と戦略修正ができる能力
- ステークホルダーとの折衝能力
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとは、プロダクトをビジネスとして成立させるために、ビジネスモデルを設計するDX人材です。顧客と企業ブランド双方にとって価値ある新しいビジネスをデザインし、デジタル事業およびマーケティングの企画・立案・推進を担います。求められる主なスキルは以下の通りです。
- 顧客視点に立ち、ビジネスにインパクトをもたらすビジネスモデルをデザインできるスキル
- デジタル事業のマネタイズを設計できるスキル
- 事業推進計画書を作成し、「まず何から始めるべきか」を定義できるスキル
- 未来の顧客や企業ブランドの成長に基づくビジョン、そこに到達するためのステップを定義できるスキル
- ステークホルダーと併走しながら、新規事業を構築するスキル
テックリード(エンジニアリングマネージャー)
テックリードとは、エンジニアチームのリーダーとなるDX人材です。プロダクトの設計・実装を担当するチームのリーダーで、エンジニアリングマネージャー(EM)やアーキテクトの役割も兼ねます。求められる主なスキルは以下の通りです。
- プロダクトのアーキテクチャ(全体的な構造)を設計できるスキル
- 採用する開発言語やフレームワークなど、最適な設計方針を決定できるスキル
- プロダクトの品質やセキュリティを担保できるスキル
- チームメンバーの特性に合わせて、タスクの割当、権限委譲などを調整できるスキル
- ロールモデルとして行動で示し、エンジニアチームをコーチングできるスキル
データサイエンティスト
データサイエンティストとは、AIやビッグデータの扱いに精通し、さまざまなデータをデジタル事業に応用するDX人材です。データをビジネス課題の解決に役立てるため、データサイエンス・データエンジニアリング・ビジネスという3つの領域の知識・スキルが求められます。
- データの理解・検証ができるスキル
- 機械学習・深層学習・強化学習ができるスキル
- データ加工や性質・関係性の把握などの解析技術
- 統計数理・線形代数・微分積分・集合論の知識
- 非構造化データ処理(自然言語処理・画像映像認識・音声認識)のスキル
- データ活用基盤の実装・運用ができるスキル
先端技術エンジニア
先端技術エンジニアとは、機械学習やブロックチェーンなどの先進的なデジタル技術を担うDX人材です。専門領域によって必要なスキルは異なりますが、主に以下のようなスキルが求められます。
- AIや機械学習、暗号通貨やブロックチェーン技術についての理解
- 新しいデジタル技術を応用したビジネスやサービスに関する知識
- セキュリティマネジメントやインシデント対応・事業継続についての理解とスキル
- セキュア設計・開発・構築に関する知識とスキル
- 新しい技術をキャッチアップし続ける能力
- 技術トレンドを迅速に取り入れ実装できる能力
エンジニア・プログラマー
エンジニア・プログラマーは、システムの実装やインフラ構築・保守を担うDX人材です。職種によって必要なスキルは異なりますが、主に以下のようなスキルが求められます。
- ソフトウェアのデータ構造やプログラミング言語・アルゴリズムなどに関するスキル
- チームでの開発に必要なテクニカルスキル・ヒューマンスキル
- 開発計画や品質などを管理するスキル
- Webアプリケーションの設計・開発に必要となる基本的なスキル
- フロントエンド・バックエンドの機能を設計・開発するスキル
- クラウドサービスを利用しシステムインフラを構築・運用するスキル
- 社内システムや外部サービスとのデータ連携・システム連携を行うスキル
UI/UXデザイナー
UI/UXデザイナーとは、デジタル事業に関するシステムのユーザー向けデザインを担当するDX人材です。「使いやすく、使っていて心地よいデザイン」を設計します。求められる主なスキルは以下の通りです。
- デジタル事業を理解し、UI/UXの価値を定義できるスキル
- 企業ブランドの価値向上につながるUI/UXデザインを実現できるスキル
- ユーザーとプロダクトの接触をスムーズにするUIを設計できるスキル
- ユーザーがプロダクトを使った際の体験を向上できるスキル
- Adobe製品などのデザインツールを扱うスキル
- SEOなどのデジタルマーケティングに関する知識・スキル
- ユーザー理解への探究心や行動心理学の知識
スキルマップがDX人材の育成のカギ
7種類のDX人材は、DXやデジタル事業を推進するチームの構成員です。全ての役割でデジタル技術に関する知識・スキルが求められる一方、役割ごとに特に重要となる知識・スキルもあります。複雑になりがちなDX人材の育成を効率化するツールが、スキルマップです。
ここでは、DX人材を「人材」ではなく「人財」と捉えることや、スキルマップを活用することの重要性を見ていきましょう。
近年話題の人的資本経営とは
近年話題の人的資本経営は、人材を「資源」ではなく「資本」と捉える点で、これまでの人材戦略と大きく異なります。
ヒト・モノ・カネなどを経営資源と捉える考え方では、「人件費を極力抑える」という発想になることが一般的でした。これに対し人的資本経営は、「人材に投資し、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる」と考えます。
デジタル技術を活用して新規事業やイノベーションを創出し、好循環な企業経営を実現するには、DX人材の活躍が不可欠です。人的資本が企業価値の根幹にあると捉え、DX人材の確保や育成に努めることが求められます。
DX人材の育成にはスキルマップが重要
人的資本経営に基づく人材育成計画を策定するには、自社の戦略上必須となるスキルを定めることが必要です。このためには、プロダクトマネージャーやビジネスデザイナーなどに求められるスキルを定義すると共に、各社員の現在の保有スキルを把握することが重要です。
スキルの可視化に役立つのがスキルマップです。職種ごとに必要なスキルと各社員の達成度をマッピングすることで、「足りないスキルは何か」「どのスキルを伸ばすべきか」といった人材育成の指針が明らかになります。
スキルマップを作成せずに人材育成を進めた場合のリスク
社員にはそれぞれの個性があります。社員の保有スキルや適性を把握せず、企業が身に付けてほしいスキルだけの教育を実施してしまうと、効果的な育成は叶いません。効果測定もしにくいため、育成後に人材の適材適所へのアサインも難しいでしょう。
DX人材の職種は7種類に大別できますが、それぞれの役割を果たすためのスキルを体系的に獲得することが必要です。研修などによるリスキリング(学び直し)も重要となるため、DX人材育成の指針となるスキルマップの作成が求められます。
DX人材のスキルマップを作成するポイント
DX人材のスキルマップがどうあるべきかは、経済産業省とIPAによるデジタルスキル標準(DX推進スキル標準)において指針が示されています。ここでは、DX人材のスキルマップを作成・運用するポイントを見ていきましょう。
スキル項目を決定する
DX人材のスキルマップを作成するには、まずスキル項目の洗い出しとカテゴリ分類が必要です。スキル項目によって、ビジネス変革関連のものか、データ活用関連のものかなど性質が異なります。DX人材に必要なスキル項目を網羅した上で、カテゴリ・サブカテゴリに分類しましょう。
例えば「データ活用」というカテゴリの下に「AI・データサイエンス」というサブカテゴリがあり、そのスキル項目として「機械学習・深層学習」があるといった具合です。
評価基準を定める
スキル項目の洗い出しとカテゴリ分類ができたら、職種(役割)ごとの重要度を設定しましょう。特定の職種にとってどのスキルがどの程度重要かを明確化することで、目指すべきスキルレベルや人物像を具体化できます。職種に求められる各スキル項目の重要度を、a~dの4段階に分ける例は以下の通りです。
- a:高い実践力と専門性が必要
- b:一定の実践力と専門性が必要
- c:説明可能なレベルで理解が必要
- d:位置づけや関連性の理解が必要
マニュアルを作成する
役割ごとのスキルマッピングが完了したら、運用マニュアルを作成し、人材育成計画の推進に活用する体制を整える必要があります。社員の保有スキルや達成段階を適切に可視化するルールを策定しましょう。運用マニュアルによって、以下のような目的を実現することが求められます。
- 評価者側がスキルマップの意味・意義を理解すること
- 社員のスキルレベルの見極め方や定量化(数値化)の基準をルール化すること
- 評価とフィードバックのスケジュールや方法を統一すること
- 公正な評価を行い、DX人材の育成計画を円滑に推進すること
【例】データサイエンティスト(データエンジニア)のスキルマップ
IPAが定めるDX推進スキル標準に基づいた、データサイエンティスト(データエンジニア)のスキルマップ例は以下の通りです。重要度は4段階で示し、「社員」の欄には各人の状況を記載します。
カテゴリ | サブカテゴリ | スキル項目 | 重要度 | 社員A | 社員B |
データ活用 | データ・AIの戦略的活用 | データ理解・活用 | b | 段階評価を記入 | |
データ・AI活用戦略 | c | ||||
データ・AI活用業務の設計・事業実装・ 評価 | c | ||||
AI・データサイエンス | 数理統計・多変量解析・データ可視化 | c | |||
機械学習・深層学習 | c | ||||
データエンジニアリング | データ活用基盤設計 | a | |||
データ活用基盤実装・運用 | a | ||||
テクノロジー | ソフトウェア開発 | コンピュータサイエンス | b | ||
チーム開発 | b | ||||
ソフトウェア設計手法 | b | ||||
ソフトウェア開発プロセス | b | ||||
サービス活用 | b | ||||
デジタルテクノロジー | フィジカルコンピューティング | c | |||
その他先端技術 | b | ||||
テクノロジートレンド | c |
まとめ
DX人材(デジタル人材)の育成は、DXの推進や業績向上を求める全ての企業にとって重要です。DX人材の役割は7種類に大別でき、それぞれの役割は相互補完的な関係にあります。社内人材のリスキリングを円滑に進めるには、スキルマップの活用が有効です。人的資本に投資し、人材の価値を最大限に引き出しましょう。
DX人材の育成やリスキリングに強みのある研修会社を活用すれば、複雑になりがちな育成計画もスムーズに推進できます。