【企業事例あり】開発を内製化するメリット・デメリットと進めるポイント
世界的なDX推進や生成AIの台頭などにより、市場は目まぐるしく変化しています。そこでITベンダー依存体質を脱却し、システム開発を内製化する日本企業が増えています。システム開発の内製化の特徴やメリット、推進のポイントについてご紹介します。
世界的なDX推進や生成AIの台頭などにより、市場は目まぐるしく変化しています。競争力や企業価値の向上において重視されるのは、市場の変化に迅速に対応できるかどうかです。そこでITベンダー依存体質を脱却し、システム開発を内製化する日本企業が増えています。
昨今の急速な市場変化を受け、システム開発の内製化を自社も進めたいと考えている企業も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、システム開発の内製化の特徴やメリット、推進のポイントについてご紹介しますので、参考にしてください。
目次
開発の内製化とは?なぜいま注目を集めるのか
内製化とは、外部委託で製造・制作していたものを、社内リソースで行うようにすることです。アウトソーシング(外部委託)してたものを社内に戻すため、インソーシング(内製化)とも呼びます。近年システム開発の内製化に注目が高まっている状況です。
いま開発の内製化が進んでいる
欧米ではITベンダーだけでなくユーザー企業もIT部門を設け、自社システムを内製することが一般的です。日本は伝統的に、「餅は餅屋」の考え方でシステム開発を外注する企業が多数派でした。ところが近年、大企業を中心にシステム開発を内製化にシフトチェンジする日本企業が増えています。
デジタル部門やエンジニア専門の採用チームを立ち上げ、IT人材が不在または数名程度の状況から、数十名や100名以上の規模へ大幅拡大する企業が増えている状況です。これによりITベンダー依存を脱却し、特に中核事業の内製化を推進しています。
開発の内製化が注目される理由
国内でシステム開発の内製化が進む背景に、デジタル技術を活用したビジネス変革、つまりDXの推進が挙げられます。社会全体でDXが進行することで、標準的なサービスやユーザーのニーズが目まぐるしく変化している状況です。しかしITベンダー依存だとスピーディな対応は難しく、市場の変化に迅速に対応する体制への転換が求められています。
クラウドやAIの台頭によりデジタル技術が身近になったこと、ノーコード・ローコード開発ツールによりコーディング不要でシステム開発ができるようになったことなども、内製化を後押ししている要因です。
開発を内製化するメリット
システム開発の内製化は、日本企業にありがちなITベンダー依存体質からの脱却という意味を持ちます。内製化を推進すると、開発速度の向上により、市場の変化に対応しやすくなることが大きなメリットです。またコスト削減やノウハウ蓄積、セキュリティ対策という意味でも魅力があります。
開発速度を高められて業務効率化につながる
システム開発を内製化することで、仕様決定からリリースまでの時間短縮や機能追加・改修の即時対応ができるため、業務効率化につながることはメリットです。外注先とのやり取りがなくなることでシステム開発のプロセスを簡略化でき、意思決定からリリース・更新までを迅速に実行できます。
外注すると仕様要求を満たさない開発による手戻りなどで、納期・リリースの遅れが起こることも珍しくありません。内製化すれば開発状況をリアルタイムで把握でき、指揮命令系統をシンプルにできることもポイントです。
外部に依頼するコストの削減になる
システム開発の一部または全部を内製化すれば、外注費のコスト削減にもなります。ITベンダーと対等に交渉できる知識・スキルのある人材が不在の場合、開発コストの肥大化を抑制しにくいケースもあるでしょう。
内製化すればニーズに合致しないシステム開発に対するコスト投下を抑制できる上、軽微な機能追加や改修に追加コストがかからなくなります。また意思決定からリリースまでを迅速に行えることで、時間的コストも抑えられるでしょう。
社内にノウハウを蓄積できる
システム開発を内製化すると、社内にデジタル技術活用のノウハウを蓄積できます。外部委託すると社内リソースに開発から運用保守までの実務能力は不要である一方、システム開発のナレッジが蓄積されません。
内製化すると企画・設計・開発・運用保守という一連のプロセスについて、豊富なノウハウが蓄積されていきます。運用保守も内製化することで、稼働中のシステムの全容把握も容易になるでしょう。特に中核事業に関するデジタル技術活用のノウハウは、自社の競争力や優位性にとって重要です。
セキュリティ体制を強化できる
IT業界には「多重下請け構造」があるため、発注後にどの国のどの組織のどのような人物に情報が渡るか不透明です。発注者は下請け企業の情報管理体制まで監督できず、いつどこから情報漏えいが起こるか予測しにくく対応も遅れます。
情報を保有する拠点が増えるほど、サイバー攻撃の被害に遭うリスクが増大することも懸念点です。内製化すると情報管理を社内に一本化できるため、機密情報・個人情報の漏えいリスクを最小限に抑えられます。
開発を内製化するデメリット
システム開発の内製化のメリットを見てきましたが、いくつかの注意点もあります。主に人材不足や育成面に課題があり、それらの問題点を解決できずにシステム開発の内製に二の足を踏んでいる企業も多いでしょう。まずは、どのようなデメリットがあるのか知ることから始めましょう。
システムがブラックボックス化するリスクがある
システム開発を内製化すると、人的リソース不足や開発担当者の離職などにより、システムのブラックボックス化を招くリスクがあります。
これはレガシーシステムを長期運用している多くの企業が経験していることです。運用期間が長くなるほど、開発者の高齢化に伴う管理職への昇進や離職により、システムの全体像や特定機能を理解し、実際に改修できる人材がいないという事態に陥ることは珍しくありません。
新技術やバージョンアップへの対応が遅れる
システム開発の内製化によって、新技術への対応やバージョンアップが遅れることもあります。デジタル部門を新設した段階では、自社にシステム開発のノウハウが蓄積されていません。
しかしネットワーク技術やデバイスは急速に高度化し、生成AIの台頭などにより技術トレンドも様変わりします。OSのバージョンアップなどの基本的な変更も含め、システム開発を内製化すれば全て自社での対応が必要です。デジタル部門の体制構築が十分でない場合、社外リソースを活用する体制に比べて、対応が遅れるリスクもあることは注意点です。
品質を担保する必要がある
自社開発したシステムの品質担保は完全に自社責任です。新設のデジタル部門によるシステム開発は、ITベンダーより品質面で劣るリスクがあります。
ノーコード・ローコード開発ツールもあるため、ある程度の機能を備えたソフトのリリースまでは難しくありません。ただし品質管理は別です。バグ・不具合はないか、UI/UXは適切かなど、IT人材による精査が求められます。
IT人材の獲得や育成の課題がある
システム開発や運用のためのIT人材を獲得・育成することは大切です。しかしIT人材の獲得競争が過熱しています。ターゲットを絞り込むと獲得難度はさらに高くなり、逆に「とりあえず採用」とすると活躍は期待できません。
必要な人員数を確保するとともに、自社の開発体制に順応してポテンシャルを発揮するための、人材育成が必要です。教育体制やキャリアパスなどに魅力がなければ早期離職のリスクもあります。
開発を内製化する際の重要なポイント
システム開発の内製化を成功させるには、計画性が不可欠です。既存システムの棚卸し、内製化すべき部分の精査、高品質をいかに担保するかという計画が求められます。より根本的な課題として、システム開発を担うIT人材の確保・育成は急務です。
既存システムを棚卸しする
内製化を進める前に、既存の社内システムを棚卸しすることが重要です。企業は社内向け・ユーザー向けにさまざまなシステムを活用しており、またそれぞれ複数システムの連携で成り立っている場合もあります。これら全てを内製化する必要はありません。
レガシーシステムや一部の業務のみで使用しているシステム、関連システムの全体像を把握し、外注したままでいい部分や内製化すべき部分を精査することが大切です。
内製化の必要性を確認する
内製化したいシステムが、自社にとって重要な成長事業に関するものかどうかを確認しておくことも大切です。既成ソフトに置き換えも可能な一般的なシステム、Webアプリ・スマホアプリといったクライアントに関しては、内製化にこだわる部分ではないかもしれません。
逆にデジタル技術の活用が企業価値の向上に大きく貢献するような中核事業であれば、システムの内製化により独自性を打ち出しやすくなります。企業価値の根幹となるシステムを内製化することで、独自ノウハウを社内で蓄積し、DXの目的を達成しやすくなるでしょう。
QCDを意識する
QCDを考慮しつつシステム開発の内製化を進めることも重視しましょう。QCDとは、ビジネスの重要な要素である「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」の頭文字からなる言葉です。
QCDはそれぞれ密接に関連しており、品質を重視するとコストが増える傾向にあり、迅速なリリースを求めると品質が低下しやすい傾向にあります。「内製化がQCDの向上につながるかどうか」という視点で、外注を続けるべきか内製化すべきかを考え、内製化する部分の課題を明確化することも大切です。
人材を確保・育成する
システム開発の内製化を進めるためには、IT人材の確保が必要です。単に人材を確保するだけでなく、仕様要求や市場の変化に対応していけるだけの人材の育成にも注力しなければいけません。
ノーコード・ローコード開発ツールも便利に活用できますが、システムの設計や障害対応などには専門知識が求められます。経営目標を達成するためには、人材育成計画の一環として採用計画を立て、長期的かつ継続的な教育訓練体制を整えることが大切です。
開発の内製化に取り組む企業の事例
システム開発の内製化はすでに市場の変化に敏感な多数の企業が取り組んでいます。成功例を知ることで、自社に適用できる部分、必要なマインド・準備などを把握できるでしょう。ここでは、内製化成功例を4つに絞って紹介します。
【事例1】キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は他社に先駆けてレガシーシステムからの脱却を図りDXを推進し、経済産業省などが定める「DX注目企業2022」にも選ばれました。全従業員で取り組む「DX道場」を2021年の春に立ち上げ、2022年末までで1,800人余の従業員が参加しています。
テックアカデミーは「簡単なアプリであれば社内で開発できるようになり、外部委託する際も対等な議論ができるレベルを目指したい」という要望を受け、プログラミング初心者の受講生を含むDX戦略推進室メンバーが、160時間でアプリ開発を学習しました。「iPhoneアプリ Swift研修」を受講することで、オリジナルアプリ開発の内製化を可能としています。
関連記事▶テックアカデミーDX研修導入事例 – キリンホールディングス株式会社様
【事例2】株式会社エディオン
株式会社エディオンは店舗システム・会員情報・物流・在庫管理・分析系システムなど12種類の基幹システムをクラウド環境に全面移行し、安定稼働を実現しています。
クラウド移行と内製化を並行して進め、以前ならITベンダーに依頼していた案件を、「現在クラウドで利用できる技術だとどうやればいいか」と全員で考えられるようになりました。これにより通常なら1か月~2か月かかるような作業が数日程度で完了するほどの開発速度を達成しています。
【事例3】株式会社星野リゾート
株式会社星野リゾートは2000年頃から情報システム部を立ち上げ、ペーパーレス化の推進などにより生産性を向上させました。しかしシステム運用や新規ITプロジェクトを画策する上では課題を抱えていたため、2018年頃から改めてエンジニア組織を内製化します。
大きな変化は、アジャイル開発とプロダクトオーナーチームの導入により、迅速なリリース・改修ができる体制を構築したことです。これによりITベンダー依存よりも素早く市場の変化に対応できるようになりました。現在は施設予約システム・管理系システムなど、全てを内製化するための体制作りを目指しています。
【事例4】株式会社良品計画
株式会社良品計画は2021年9月のEC・デジタルサービス部立ち上げに伴い、エンジニア数を数名規模から大幅拡大しました。独自性の高いシステムは内製化し、定期的あるいは汎用的なものはITベンダーに委託する方針を取り、APIベースのシステム開発内製化を推進しています。
これによりMUJI Passportアプリ、ネットストアなどの社内システムをフルに連携できる体制を構築できました。現在は物流・会計などを含むあらゆるサービスをAPIでグローバルに連携できる「MUJI Digital Platform」の実現を目指しています。
まとめ
世界的なDX推進や生成AIなど新技術の台頭により、日々強力な新規サービスが登場することで、市場の変化は加速しています。この変化に迅速に対応して企業価値・市場競争力を向上させるには、ITベンダー依存の体制から脱却し、システム開発内製化を推進することが重要です。
内製化推進の基盤として、IT人材の確保と育成は不可欠といえます。社内教育が困難であれば、ITやAIなどの分野に強みのある、実績豊富な研修会社を活用しましょう。
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